著者
高嶋 梨菜 藤本 聡
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.70, no.11, pp.830-834, 2015-11-05

磁性体で発見された渦糸状スピン構造のスキルミオンは,連続変形ではつぶせない安定な構造をもち,粒子や弦のような独特のダイナミクスを示すことから,基礎物性として興味深いだけでなく,磁気記憶デバイスなど応用上の研究の展開も期待されている.また,このスキルミオンは伝導電子に有効的な「磁束」として作用することも知られており,トポロジカルホール効果として観測されるなど,スキルミオンとの結合で生じる伝導現象についても関心を集めている.最近,スキルミオンが格子状に配列した相をもつ金属磁性体Fe_<0.5>Co_<0.5>Siにおいて,スキルミオンの合体ダイナミクスが報告された.磁場中で磁性体を冷却することにより,スキルミオンの準安定状態が実現されるが,この状態で磁場を下げたときに,スキルミオンが合体して数を減らす様子が観察されている.さらに数値計算に基づき,合体点で有効「磁場」の湧き出しを与えるモノポール構造の生成が示された.このモノポールの生成消滅を伴う「磁束」の合体・分裂過程は,通常の電磁現象では見られない際立ったものである.さて,本稿では,このスキルミオンの合体過程がもたらす新奇な伝導現象,電磁現象に関する最近の研究を紹介する.特にこの研究では伝導電子に働く効果として,スキルミオンとの相互作用に加えて,相対論的なスピン軌道相互作用に注目する.すなわち,Fe_<0.5>Co_<0.5>Siにおけるスキルミオンの実現にはDzyaloshinskii-守谷(DM)相互作用が不可欠であるが,この系のDM相互作用は結晶の空間反転対称性の破れとスピン軌道相互作用に由来している.他方,Fe_<0.5>Co_<0.5>Siは,伝導電子が磁性も担う遍歴磁性体であることから,伝導現象にも空間反転対称性の破れに起因するスピン軌道相互作用が重要な役割を果たすと考えられる.スキルミオンやモノポールのようなトポロジカルに非自明なスピン構造は,ベリー曲率の効果により,伝導電子に対して有効的な「磁場」を生み出し,それらのダイナミクスは,有効的な「電場」を生み出す.さらに反転対称性の破れに起因するスピン軌道相互作用が存在すると,上記の実空間における非自明な構造に加えて,波数空間にもトポロジカルに非自明な構造をもつことになる.この2つの非自明な構造の絡み合いが,磁気スキルミオン-モノポール系の物理に新しい色彩を加える.たとえば,空間移動するモノポールが,有効的な磁荷に加えて,電荷をもつような振る舞いを示すことが分かった.つまり,あたかもダイオンのようにふるまうのである.このような伝導電子の豊かな構造とスキルミオン特有のダイナミクスを組み合わせることで,今後も多様な現象が見つかることが期待されている.

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モノポールが生じる話、以前にもなかったっけと思って調べたら、昨年の物理学会誌にあった。 https://t.co/FSNisa9Oal

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