- 著者
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丹野 正
- 出版者
- 弘前大学大学院地域社会研究科
- 雑誌
- 弘前大学大学院地域社会研究科年報 (ISSN:13498282)
- 巻号頁・発行日
- no.3, pp.37-47, 2006-12-28
一般に狩猟採集民の社会は徹底した平等主義社会であると位置づけられている。リー(1979)が記載したクン・サンのハンターたちが交わす「きついジョーク」は、このことを端的に示す事例として多くの人類学者たちが紹介している。また、リーが調査地のクンたちへのクリスマス・プレゼントとして購入してきた大きな雄牛が、彼らによって酷評されてしまったというエピソードも、同様の例として引用される。私はムブティやアカのハンターたちが仲間の殺した獲物をけなす「きついジョーク」を聞いたことがなかった。そこで、クンはなぜそのようなジョークをあえて言うのかという疑問をもった。また、リーはハンターたち自身による「きついジョーク」と雄牛のエピソードのどちらを先に経験したのだろうか。本稿では、リー自身は雄牛の一件をどのように受けとめ、そこから何を理解するに至ったのか、さらに、ハンターたち自身が交わすとされる「きついジョーク」は実際にはいつ、どこで、どのような状況のもとでリーが知ることができたことなのかを、リーの叙述をもとに明らかにする。これらのことは、彼の著書の以下のような目的に直接に関わっているからである。「・・・また調査者たちがクンの生活に、そしてクンたちが調査者たちの生活に及ぼした相互のインパクトを跡づける。その目的はフィールドワークの経験なるものを(読者に)お伝えすることにある。」