著者
谷本 誠剛
雑誌
関東学院大学文学部紀要 (ISSN:02861216)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.195-210,

第二次大戦後のイギリス児童文学は「現代児童文学」の始まりの時期とされる。この時期のファンタジーに特徴的なのは、現実主義的なリアリズムの要素の強さである。そのことはこの時代をリードしたルーシー・ボストンの『まぼろしの子どもたち』に典型的に示される。タイムファンタジーとしての作品は、過去の人物が現世において感知される不思議を描いているが、同時にそれが主人公たちの心中のヴィジョンにすぎないのではないかということを終始問題にしている。さらに作品の文体も、児童文学的な語り口を持ちながらも、小説的リアリズムになっているといえる。そもそもタイムファンタジーと云うジャンル自身、歴史というリアリズムと、異なる時代が交流するというファンタジーの手法が重なり合ったものである。リアリズムの要素のきわめて強いこの期の作品が大人読者を獲得したのも当然であり、その作風は魔法の不思議などを当然の前提とする物語的なそれまでの児童文学とはっきり異なるものであった。現代のファンタジー文学のありようを認識するためにも、現代児童文学の出発の時期を振り返っておきたいと思う。

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