- 著者
-
新間 一美
- 出版者
- 京都女子大学国文学会
- 雑誌
- 女子大国文 (ISSN:02859823)
- 巻号頁・発行日
- no.153, pp.134-151, 2013-09
松尾芭蕉の『奥の細道』は、「月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり」で始まっており、李白の「春夜宴桃李園序」(古文真宝後集)の冒頭部「光陰者、百代過客」を踏まえたものとされる。その後、「弥生も末の七日」(元祿二年〈一六八九〉三月二十七日)に深川の芭蕉庵を出発する。門人に見送られ、彼等と千住で別れる時に「行く春や鳥啼き魚の目は泪」を詠み、それを「矢立てのはじめ」として、そこから旅が始まる。 春から夏へと季節が移り、平泉で杜甫の「春望」詩の「城春にして草木深し」を踏まえた「夏草やつはものどもが夢の跡」の句を詠む。ほぼ半年の旅が続いて、九月六日に岐阜の大垣で「蛤のふたみに別れ行く秋ぞ」の句が詠まれて、作品が終わる。 この「行く春」と「行く秋」は首尾呼応しており、冒頭の「百代の過客」も加えて、作品全体の主題を示しているとも考えられている。