- 著者
-
江村 義行
- 雑誌
- 情報と社会 = Communication & society
- 巻号頁・発行日
- no.18, 2008-03-15
平成19 年のブルドックソース事件において東京地裁(6 月28 日), 東京高裁(7 月9 日), 最高裁(8 月7 日)は, 買収者出現後(=有事) に株主総会の特別決議を経て導入した敵対的企業買収防衛策(新株予約権を発行するもの) を肯定した。しかし, 防衛策に関する基礎理論研究が不足している。そこで本稿では, 新株予約権を用いた防衛策の可否を検討するため, 第一に法人が防衛策を行うことの可否, 第二に防衛策導入の決定機関, 第三に防衛策による株主の排除の可否について考察を行う。これにより以下のことが判明した。そもそも株式会社という法人が防衛策を行うことができるのか否かという問題については, 従来の敵対的企業買収に関する紛争事例(株式発行の場合) では, 法人が防衛策を行うこと自体, 否定的に理解されていた。しかし, 今日の敵対的企業買収に関する紛争事例(新株予約権発行の場合) は, ブルドックソース事件に代表されるように, 必ずしも防衛策を否定的に理解していない。濫用的買収者によって株式会社がその存廃に著しい影響を受けるときは, 自衛のために防衛策を導入及び発動することができると考えられる。そのような防衛策は株式会社という法人の意思に基づいて行われるものであり, その意思を形成する機関は株主総会である。防衛策を導入する際の決議要件は, 会社法上の少数株主の排除を可能とする他の規定との兼ね合いから, 買収者株主を排除する(持株比率を低下させる) こととなる防衛策の場合も特別決議が必要と考えられる。但し, 株主総会の特別決議により株主の同意を得て新株予約権を用いた防衛策を導入したとしても, 会社は濫用的買収者に対抗する場合に例外的に防衛策を行使するようにしなければならない。また, 株主総会は濫用的買収者の認定を正当に行う必要がある。会社は防衛策の発動にあたり買収者株主に経済的損失を与えてはならない。違反した場合は, 裁判所によって防衛策が株主平等原則違反及び不公正発行と判断されてしまう可能性を否定できない。