- 著者
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髙島 まり子
- 出版者
- 鹿児島女子短期大学
- 雑誌
- 鹿児島女子短期大学紀要 (ISSN:02868970)
- 巻号頁・発行日
- no.49, pp.85-95, 2014
英雄の死と再生を描く太陽神話縮図の下半円を C.G. ユングは 「夜の航海」 1 (night sea journey) と呼び, 自我が無意識の深みに下降し, 死を経た後に無意識から新たな心的エネルギーを供給されて意識面に再生するまでの精神的再生過程を象徴する元型と考えた. この過程は意識と無意識の統合を目指し, 様々なイニシエーションに死と再生の儀式として組込まれてもいる. 筆者は1850年刊行のナサニエル・ホーソーン作 『緋文字』 にこの元型的過程を見出したが 2, 時空を超えた2000年のデンマーク映画 『ダンサー・イン・ザ・ダーク』 3 にそれを見出し, その意味と 『緋文字』 との関連性を同年に論じた 4 (以後, これを拙論<Ⅰ>と記す.). ところが, 2001年に公開されて当時の我が国の映画史上最高の2,340万人もの観客動員を記録し, 2002年ベルリン国際映画祭最高賞の 「金熊賞」 と2003年米国アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した宮崎駿監督作品 『千と千尋の神隠し』 (以下, 『千尋』 と表記する) が, 全編これ 「夜の航海」 と言ってもよい内容であることは, 日本を舞台に日本人を描いた作品であるだけに一層嬉しい発見であった. あらすじを述べ, 『緋文字』 と比較しつつヒロインの 「夜の航海」 をり, ホーソーン的な意識と無意識の統合過程が現代の我々にとって持つ意味を再考してみたい.