- 著者
-
大井 佐和乃
Sawano Ohi
- 出版者
- 武庫川女子大学大学院生活環境学専攻 ; 2013-
- 雑誌
- 生活環境学研究 = Mukogawa journal of human environmental sciences : 教育・研究誌 (ISSN:21883335)
- 巻号頁・発行日
- no.5, pp.46-49, 2017
現代日本の都市ではカフェや喫茶店が街中にある風景はありふれたものとなっている。多くの駅前にはチェーン店のカフェが出店しており,駅構内で営業している場合もある。カフェと喫茶店はどちらもコーヒー,お茶,ジュース,軽食などの飲食物を提供する店舗に変わりはなく,カフェと喫茶店の違いは明確には存在しないようだ1)。読売新聞のキーワードによる記事検索では「カフェ」を含む記事数は増加し続けている(図1)。一方「喫茶」を含む記事数は減り続け,2005年に「カフェ」の数が「喫茶」を超えた。時代によって変化してきた提供物の趣向やサービスの傾向などによって喫茶という言葉の代わりにカフェが使われ始め,今ではカフェの方が広く浸透した呼び名となっている。カフェ,喫茶店の客は飲食以外で何の行為をしているのだろうか。一人で来る客は時間つぶしでスマホ操作,読書,あるいは何もせずにもの思いにふける場合もあるだろう。また勉強をしている学生や仕事をする社会人もいる。ノートパソコンで仕事や何かしらの作業をしている人もいるが,その需要に応えコンセントや無線LANを設置している店も多い。複数人でいる場合はおしゃべりを楽しんだりするだけでなく,仕事の打ち合わせなど会議室代わりとしても使われる。早朝にはモーニングを提供し,夜は遅くまで営業している店もあり,時間帯によって客層の世代や社会的立場が変化しつつ存在している場所である。レストランでは食事と会話以外の行為をすることを憚られるが,カフェや喫茶店は飲食店ではあるものの,食欲を満たすためという側面が薄いことから,仮設の私室としての感覚で気軽に利用できる。しかし周囲に他人がいる公共の場所であり,特にフルサービスの店では常に店員が客席に気を配っているため,場合によっては周りの目を気にすることもあるだろう。また,周りからどのように見られるかを気にするという側面から考えると,どのようなタイプのカフェや喫茶店に行くかによって自分らしさを表現しているというパターンもあるだろう。本稿ではカフェという言葉に押され気味の喫茶店と呼ばれる存在に着目し,主に昭和創業で現在も営業し続けており当時の面影を残す喫茶店を純喫茶と呼ぶこととする。総務省がおこなう事業所調査では喫茶店の店舗数は1981年のピーク以降減少し続けている。しかし近年純喫茶の全盛期を経験していない世代が純喫茶に価値を感じている現象があることを様々なメディアから見ることができる。また若年層が中心となっているSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の一つであるインスタグラムでも純喫茶に関する投稿が見られる。若い世代が経験していないにもかかわらず純喫茶に対して郷愁を感じているのはなぜなのか,そして純喫茶の今後を考える。