著者
田川 夢乃
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
雑誌
コンタクト・ゾーン = Contact zone (ISSN:21885974)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2019, pp.95-121, 2019-08-31

本論は、フィリピン、マニラ首都圏M市の日系カラオケパブ(JKTV)の事例から、金銭を介した交換関係における親密性を検討することを目的とする。ここでは、売買春、セックスワークといった対人接客的性サービス業における「商品」をめぐる議論に基づき、JKTVにおける「サービス提供者」としてのフィリピン人女性と「顧客」としての日本人男性の関係性において金銭と引き換えに提供される「モノ」とは何かを考察する。売買春は、お金を用いた交換と社会関係に関して、最も議論されてきたもののひとつであろう。売買春をめぐっては、そこで取引されている商品が、売春者の身体や人格の一部であるのか(「性の商品化」)、性的なサービスであるのか(「セックスワーク」)が問題とされてきた。本論は、顧客男性の射精を促すサービスを含まない、売買春のグレーゾーンに位置づけられるJKTVを対象とし、ここでの「商品」を売春者と買春者の間に形成されるモノとして検討する。JKTV は、生活の文脈を共有しないフィリピン人女性と日本人男性が「サービス提供者」と「顧客」として出会うコンタクトゾーンとして想定される。そこでは、性的関心を含む好意を持った相手との「疑似恋愛」の相互的な働きかけのプロセスが、両者の間に<選択的コミットメント>に基づく文脈限定的な親密性を形成していた。JKTVにおいて顧客によって支払われる金銭は、共通性も共有性も持たない両者の関係性の文脈を代替し、「サービス提供者」との間に親密な関係性を形成しうる「顧客」としての「役割」をもたらしていると考えられる。

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