- 著者
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澤野 美智子
- 出版者
- 京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
- 雑誌
- コンタクト・ゾーン = Contact zone (ISSN:21885974)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, no.2019, pp.235-248, 2019-08-31
語りについて論じた先行研究は、本稿で検討する諸概念に見られるように、文化人類学や質的社会学、口述史などの質的調査において学問上の目的からインタビューがなされる場合が主に想定されてきた。ナラティヴ研究で扱われてきたような、語りの「正しさ」(accuracy)や集め方・捉え方が問題になってくるのは、必ずしも学問上の目的からなされるインタビューに限らない。より実践に近い場で対話や説明がなされるときも同様の事柄が問題になりうる。ただし、実践現場で語りが発せられ受けとめられる状況は、質的調査のインタビューとは異なりうるため、質的調査を通して議論されてきた語りの概念を適用するための通路が見当たりづらい。その要因の一つとして、それぞれの分野で語りの「正しさ」の前提が異なっていることが挙げられる。本稿ではナラティヴ研究の概念を、質的調査とは異なる実践場面に即して検討することを試みる。これは、異なる「正しさ」を想定している語りを、共通の土俵にのせて論じるための試みでもある。これにより、多様な実践現場において、それぞれ語りの「正しさ」がどのように前提され、互いにどのように異なっているのか、あるいは類似しているのかを明らかにすることができる。特に本稿では、語りの「正しさ」、アクティヴ・インタビュー、対話的構築主義という観点から、本特集に収録している司法面接、医療、精神分析の実践場面における語りについて検討する。