著者
大矢 裕一
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.30, pp.251-255, 2020-03

社会的厚生は,個人の効用の集積であり,社会全体の望ましさを示すものである。公共経済学ではこの社会的厚生を最大化させる制度設計のあり方がこれまで議論され,社会的厚生を最大化させることが政府の役割であることが認識されている。しかし,周知されている通り,「市場の失敗」及び「政府の失敗」によって,社会的厚生の拡大が抑制・毀損される。これらのことに加え,事業の許認可における行政の判断の誤りによって社会的厚生の拡大が阻害され得る。本研究は,事業に対する行政の許認可に関して,社会的厚生毀損の要因を行政と市場との関係から検討し,社会的厚生を確保するための,市場に対する行政の役割を明確にする。 行政は事業の許認可権限を持つため,行政は実質的に企業の市場参入を規制(審査)する権限を持つことになる。言わば,行政は企業の市場参入への門番(ゲートキーパー)の役割を果たすことになる。公害等負の外部効果を発生させる事業者,食品衛生の維持に不備のある事業者や危険物を適切に処理する能力を有しない事業者等,不適切な事業者に対して,また,事業の許認可をめぐり事業者間で競合となった際に社会的厚生の最大化に適さない事業者に対して,市場参入への事業の許認可を行政が与えることを,本稿は「行政の失敗 (administrationfailure) 」という概念で示す。「行政の失敗」の要因は,事業の審査に関する法の不備,行政と事業者との情報の非対称性,行政(官)の審査能力の欠如,事業審査の際の行政への贈賄が考えられる。外部不経済を発生させる無許可操業や,国民生活に弊害を及ぼす薬物の売買等の犯罪行為に対する取締りの不備も,予算と人員の制約を受けるが,それらを取り締まる立場にある警察行政という観点で「行政の失敗」と言える。

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