著者
山内 俊吉
出版者
The Ceramic Society of Japan
雑誌
大日本窯業協會雑誌 (ISSN:03669998)
巻号頁・発行日
vol.45, no.533, pp.279-299, 1937
被引用文献数
3

ポルトランドセメントのセリツト部分は4CaO・Al<sub>2</sub>O<sub>3</sub>・Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>なる化合物であると唱へてゐるが尚ほ不可解な點が多く理論的或は技術的立場から今一段の研究が希望されてゐる現状である。<br>著者はこの樣な見界からセリット部分の研究に手を染めることにした。<br>そこでセリット部分の研究に先だつて確めておかねばならぬ基礎的な部分はCaO, Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>, CaO-Al<sub>2</sub>O<sub>3</sub>系CaO-Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>系等に關する正しい知識である。 CaO-Al<sub>2</sub>O<sub>3</sub>系については著者等は度々本統に報告してきたので本報ではCaO, Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>, CaO-Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>系等についての結果を報告することにした。<br>即ち本報に於てはCaCO<sub>3</sub>, Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>等の加熱による構造の攣化, CaCO<sub>3</sub>:Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>が3:1, 2:1, 1:1, 1:2の4種調合物を1000-1470℃の各種温度で燒成してCaO-Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>系の化合物の種類等を顯微鏡及びX線的に確かめ最後にCaO-Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>系の純化合物の水和作用をしらべた結果を報告した。<br>その結果は大約次の様であつた。<br>(1) 2CaO<sub>3</sub>・Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>等は著者の様な實驗條件では温度によつて構造の變化なしと考へて差支えない。<br>(2) CaO-Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>系には2CaO・Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>, CaO・Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>の二種の化合物が存在する。 之等の合成に於ては著者の實驗條件では温度による變態及び解離は考へなくてもよい。<br>(3) 2CaO・Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>は熔融點以下で或る量のCaOと固溶體を作り熔融點以上では2CaO・Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>とCaOとに解離することを新に發見した。<br>(4) 2CaO・Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>は水を加ふれば可なり早く水和する。 20日に於てX線的には殆んど原化合物は認められない位に水和し盡してゐることが分る。 2CaO・Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>は水と作用し水セメント比が普通工事程度の水量の時は水和生成物として2CaO・Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>・5H<sub>2</sub>Oを作る。 この水和物は多量水を以て抽出すれば加水分解を起し次第に低石灰化合物となり最後にはCa(OH)<sub>2</sub>とFe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>・nH<sub>2</sub>Oとになる。<br>(5) CaO・Fe<sub>2</sub>O<sub>3</sub>は水和しない。<br>終りに臨み本研究を行ふに當り直接御指導御助言を賜はつた恩師東京工業大學教授近藤清治博土並に本研究を熱心に援助された近藤教授研究助手小西幸平君に對し衷心の謝意を捧るぐ次第である。

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