- 著者
-
吉野 正敏
- 出版者
- Japanese Society of Biometeorology
- 雑誌
- 日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
- 巻号頁・発行日
- vol.49, no.4, pp.131-140, 2013
インドにおける熱波の定義は次のとうりである.すなわち,長年の日最高気温の平均が 40℃以上の地域で平年値より 3~4℃以上高い場合を『熱波』,5℃以上を『厳しい熱波』とする.長年の日最高気温の平均が 40℃以下の地域で気温が平年値より 5~6℃高い場合を『中位の熱波の影響を受けた』と言う.もし 6℃以上ならば『厳しい熱波』とする.熱波は通常 5~6 日,まれに 15 日以上連続する.厳しい熱波は通常 3~4 日で終わる.インド全体における 1978 年から 1999 年までの 22 年間の平均では,熱波の 1 年間の発生頻度は 11.5 回,月別にみると,5 月が最多で,5.0 回,6 月が 3.9 回,4 月が 1.9 回である.州別にみると,マハラシュトラ州が 1.6 回/年,ビハール州・ラジャスタン州・西ベンガル州それぞれ 1.3 回/年である.6 月の熱波の発生回数は 5 月と同じかやや少ないが,熱中症による死者数は 6 月のほうが 5 月より多い.影響を受ける人間(高齢者が多い)の体力の遅れ効果と考えられる.また,水供給システム(死者は都市部の貧困層に多い)の劣化・悪化,衛生状態の 2 次的悪化(間接的)影響なども考えられる.死者数はエル・ニーニョ年にはきわめて少ないがその翌年にはきわめて明瞭に多くなる.例えば,1983 年には前年の 17 倍,1988 年には約 100 倍,1998 年には約 190 倍になった.特に 1998 年は 20 世紀末における最大の死者数 1,658 人を記録した.この年の熱波回数は 33 回であった.2012 年 4 月~7 月は南西モンスーンの開始が遅れ,近年,まれにみる猛暑となり,44~49℃に達する地域が広く現われた.死者数は 575 人(2012 年 10 月末現在の資料で)に達した.野生動物(象・ねずみ・カラスなど)大量死が報告された.人間社会では高温による食中毒・生活用水不足が深刻になった.大停電が発生し 6 億 2 千万人が影響を受け,学校閉鎖・医療機関の機能麻痺・交通機関停止(鉄道運休・道路信号機不能による渋滞など),2 次的(間接的)影響が深刻になり生気候学的課題が多数明らかになった.<br>