著者
坊木 佳人 山田 雅英 北小路 学
出版者
日本応用糖質科学会
雑誌
Journal of Applied Glycoscience (ISSN:13447882)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.241-247, 2006
被引用文献数
1

生薬の抽出残渣に含まれている澱粉の有用性を評価するため,澱粉の物理化学的な諸特性を調べた.生薬は収穫時期あるいは栽培地の異なるものを用いた.澱粉(S)は,<i>Pinellia ternata</i> (Thunb.) Breitenbachの塊茎,ハンゲ(PT),<i>Alisma orientale</i> Juzepczukの塊茎,タクシャ(AO),<i>Coix lacryma-jobi</i> Linn&eacute; var. <i>ma-yuen</i> Stapfの種子,ヨクイニン(CL)から調製した.PT,AO,CLの粉末生薬には,澱粉が41.1-77.5,12.5-40.5,1.5-5.8%含まれていた(Table 1).S-PT,S-AO,S-CLの平均粒子径は8.2&plusmn;0.2-16.0&plusmn;0.4,6.1&plusmn;0.2,11.5&plusmn;0.4-13.5&plusmn;0.4 &mu;mであった(Fig. 1).S-PT,S-AO,S-CLの結晶型はC<small>A</small>型であった(Fig. 3).S-PT,S-AO,S-CLそれぞれの燐含量は62-330,93-110,75-210 &mu;g/g,カルシウム含量は320-530,48-260,18-33 &mu;g/gであった(Table 2).S-PT-1,S-AO-2,S-CL-2の吸熱曲線は67.3-85.0,58.9-84.2,59.2-81.0&deg;Cの範囲内に観察され,エンタルピーはそれぞれ3.4&plusmn;0.3,4.2&plusmn;0.0,4.5&plusmn;0.2 J/gであった(Table 3).これらの澱粉は低エネルギー糊化デンプンとしての利用が期待できる.生澱粉S-PT,S-AO,S-CLの&alpha;-アミラーゼによる72時間後の分解率は35.3&plusmn;2.4,38.3&plusmn;2.3,62.2&plusmn;5.2%であった(Fig. 4).&alpha;-アミラーゼにより生澱粉から生成した(分解率 : S-PT-1,2.4% ; S-AO-2,5.8% ; S-CL-2,7.1%)主な糖類は,三単糖(35.8-40.0%)とマルトース(35.8-42.8%)であった(Table 4).グルコアミラーゼにより生澱粉から生成した(分解率 : S-PT-1,4.8% ; S-AO-2,12.1% ; S-CL-2,18.7%)主な糖は,グルコース(97.6-99.5%)であった(Table 5).S-PT-1,S-AO-2,S-CL-2は,1時間分解後,&alpha;-アミラーゼによって粒子の表面全体が凸凹に侵食されたが,グルコアミラーゼによっては原型をとどめており粒子表面に小粒が付着していた.S-CL-2の粒子には,グルコアミラーゼによってその原型を失っているものもみられた(Fig. 2).&alpha;-アミラーゼにより分解されたS-PT-1(A),S-AO-2(A),S-CL-2(A)は,多孔性のゆえに吸着剤としての利用が期待できる(Fig. 2).糊化温度とエントロピーの結果から,&alpha;-アミラーゼによって分解されたS-PT-1,S-AO-2,S-CL-2の方が,グルコアミラーゼによるものよりも,熱安定性の高いことが推察された(Fig. 2,Table 3).

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