- 著者
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富田 宏
- 出版者
- 農村計画学会
- 雑誌
- 農村計画学会誌 (ISSN:09129731)
- 巻号頁・発行日
- vol.32, no.4, pp.467-469, 2014
- 被引用文献数
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3
東日本大震災から2年10カ月を経た本稿執筆時(平成26年1月半ば),多くの被災市町村では正月休み返上で,復興庁に対する第8次復興交付金事業申請作業真最中の筈である。筆者は,長年漁村計画あるいは漁村研究に携わってきた経緯から,個人的ボランティア活動として,時には研究者として,あるいは公的な漁業集落防災機能強化事業の復興交付金事業採択に向けた自治体支援コンサルタントの立場として,いくつかの東北被災漁村復興の2年10カ月のプロセスを見る機会を得た。東日本大震災復興の最大の特徴は,関東大震災や阪神淡路大震災等の大都市直下型地震と全く異なり,資源依存的立地特性に規定され成立する属地的産業(関連産業を含めた)である漁業と地域社会の広域連担の再生に他ならない点にあった。しかも,全国的な少子高齢化を先取りする過疎高齢化地域という条件を背景に,2000年代に進んだ広域市町村合併後の分権自治体の復興力が試されるはずであった。そして,誰もが,多くの産学官の英知が結集,連携し,再大効果を発揮するシステムが構築されるであろうことを期待した。しかし,ジョン・ダワーの「3.11で時代を変革するための空間が空いた」という言葉は,3年を迎えようとする今,幻想に終わろうとしている。ここで扱うのは,東北被災地の漁村復興に絞った問題のみであるにも関わらず,そこから見えてくる行政・計画技術の無力さと災害列島日本の将来への危機感である。本稿執筆のきっかけは,まさに,列島を覆う思考停止と沈黙に対する危機感に他ならない。