著者
関山 和秀
出版者
特定非営利活動法人 日本口腔科学会
雑誌
日本口腔科学会雑誌 (ISSN:00290297)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.75, 2015

石油系合成高分子等の従来型素材は,その多くが原料を枯渇資源に頼り,生産工程でも膨大なエネルギーを必要とする。大量生産・大量消費・大量廃棄型経済から脱却し,持続可能な社会を実現するための切り札として注目されている素材が「クモの糸」をはじめとする「構造タンパク質」である。鋼鉄の340倍の強靱性(タフネス)を誇る「クモの糸」などの構造タンパク質は,環境性と超高機能性を両立する次世代基幹素材の本命として実用化が期待されているが,工業化に向けた技術的ハードルが極めて高く,産業的に未開拓である。メーカーが本素材を用いて開発を進めようにも,製品開発ができるレベルでのサンプル供給を行なえるサプライヤーが存在しなかったことが,その主な要因であった。私たちは,2004年より慶應義塾大学先端生命科学研究所にて本研究開発に取り組みはじめ,その研究成果をもとに2007年にスパイバー株式会社を設立,量産化のための基本となる要素技術を確立し,2013年11月NEDOからの支援を受け,世界で初めて製品開発ができるレベルでのサンプル供給が行なえる試作研究施設「PROTOTYPING STUDIO」を立ち上げた。また,2014年には,我が国成長戦略の要となる次期基幹産業創出を目指したハイリスク・ハイインパクトな研究開発課題を国家的に支援するための内閣府主導「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」において,「超高機能構造タンパク質による素材産業革命」として本研究課題が採択されたことで,今後鶴岡サイエンスパークを拠点とする研究開発体制が大幅に増強される見通しである。また,2期連続で採択を受けたNEDOプロジェクトにて,これまでの知見を総動員した次世代型パイロットラインを建造中であり,今春頃の竣工を目指している。これにより,本格的にメーカーとのアプリケーション開発のための試作検討を開始できる見込みである。今後,人類がタンパク質を工業的に素材として使いこなせる時代を切り拓き,本素材を一日も早く社会に普及させるべく,ImPACT等の活用によりさらなる研究開発の推進を図るとともに,戦略的にパートナー企業とのアライアンスを進め,構造タンパク質素材の世界初の工業化の実現を目指す。最終的には世界の合成高分子の20%程度を構造タンパク質素材に置き換えることができる可能性があると試算しており,関連産業を含めれば数十兆円規模の巨大なマーケットポテンシャルを秘める。本プロジェクトは,石油化学が中心であった工業材料に,「構造タンパク質素材」という新たなカテゴリーを創造し,枯渇資源に頼らない持続可能な社会の実現に大きく貢献するものである。本講演では,私たちのこれまでの取り組みや,組織としての特徴,今後の展望等について発表できる範囲で概説する。

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