- 著者
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田 泰昊
- 出版者
- カルチュラル・スタディーズ学会
- 雑誌
- 年報カルチュラル・スタディーズ (ISSN:21879222)
- 巻号頁・発行日
- vol.6, pp.145-168, 2018
本稿は、日本のコンテンツ産業の特徴であるメディアミックスが、実際にどのように動いているかについて考察するものである。特にメディアミックスの現場で活動している実務者(KADOKAWA のライトノベル編集者)たちが、自分の職業とメディアミックスをどのように認識しているか、そしてその認識のもとでどのように実践しているかを、インタビューを通じて検討した。その結果、メディアミックスはあくまでも編集者本人の「書籍の販売数をより多くするための戦略」であって、彼らを動かす動力は創造的な動機ではなく、リスクに対する恐れからなるものであった。本稿はこのリスクを大きく分けて3 つあるものとみて、彼らがそれをどのように乗り切っているかを明らかにしている。3 つのリスクとは、第一がライトノベル市場の狭さ、第二が相手会社に対する不安、第三がメディアミックスされた作品の作品性に対する不安である。これらを克服するため、彼らはメディアミックスを念頭に置き、良い作品をつくろうと努力する。具体的な実践は次のようである。1つ目は、キャラクターをつくることに力を入れることで、イラストレーターの選定の際にもメディアミックスを考えながら進める。2 つ目は、相手会社(マンガやアニメ関係)に対する情報を継続的に収集し、場合によってはプレゼンテーションまでする。3 つ目は、編集者自ら発売のタイミングを調節し(コミカライズ)、脚本会議にも定期的かつ積極的に参加(アニメ化)することで、メディアミックス作品の完成度を高め、作品の魅力が失われないようにすることである。