- 著者
-
二川 健
- 出版者
- 公益社団法人 日本生体医工学会
- 雑誌
- 生体医工学 (ISSN:1347443X)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, pp.180, 2020
<p>寝たきりや宇宙フライトなどの身体に無重力ストレスが加わる状態においては骨格筋の萎縮が進展することが知られている。当研究室はこれまでの研究で、無重力ストレスによってユビキチンリガーゼCbl-b の発現が増大し、それがIRS-1 のユビキチン化、分解を誘導しIGF-1 シグナルが阻害され筋萎縮が発生することを明らかにしてきた。しかし、細胞が無重力ストレスをどのように感知しCbl-b の発現を亢進しているかは依然として不明なままであった。そこで、我々はこの細胞による重力の感知機構を明らかにするため、国際宇宙ステーション宇宙実験、地上の模擬微小重力培養装置である3D-Clinorotationを用いた検討を行った。まず、Myolab 宇宙実験において、1 週間無重力空間で培養した宇宙サンプルのメタボローム解析を行った。その結果、細胞中の酸化ストレス蓄積量とエネルギー代謝に関連したミトコンドリアに局在するタンパク質の発現に変化が見られた。3D-Clinorotation による実験でも、宇宙サンプルと同様に細胞内の酸化ストレスの上昇が見られること、この上昇した酸化ストレスによってミトコンドリア内のエネルギー産生に重要な酵素アコニターゼの機能が低下すること、さらにミトコンドリアの形態に異常が引き起こされていることが明らかとなった。また、siRNA を用いたアコニターゼノックダウン実験では、3D-Clinorotation を行った際と同様のミトコンドリアの形態変化が引き起こされた。これらの結果は、アコニターゼをはじめとしたミトコンドリアの構成タンパク質が細胞の重力感知の初期応答に重要な働きを担っていることを示唆している。</p>