- 著者
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広谷 鏡子
広谷 鏡子
- 出版者
- NHK放送文化研究所
- 雑誌
- 放送研究と調査 (ISSN:02880008)
- 巻号頁・発行日
- vol.71, no.4, pp.26-44, 2021
「オーラル・ヒストリー」の方法論を用いて、関係者の証言をもとに「テレビ美術」についての論考を発表してきたが、今回は、1981年から2002年まで、連続ドラマとドラマスペシャルとして放送された『北の国から』(フジテレビ制作)の美術に着目した。ドラマの舞台である北海道にオープンセットを建設して撮影したこのドラマにおける「美術」の役割は、重要かつ多岐にわたった。本稿では、美術プロデューサー・梅田正則の証言を通じて、それを浮かび上がらせる。主人公の家族が移り住んだオープンセットの「家」が、どのような発想のもとに生み出され、人が生活する場としてのリアリティーを増していくかを、ドラマの時系列に沿ってたどると、数多くの工夫や苦労が明らかになった。ドラマは「嘘」だが、それを「本物らしく」表現するのが美術の基本、と梅田は言う。元々は映画の小道具係を志し、黒澤明作品を美術の教科書と仰ぐ梅田は、映画に負けない美術をこのドラマで目指した。妥協しない美術のスタンスは、スタッフや出演者の本気度を高め、『北の国から』がテレビ史に残るドラマとなる一翼を担ったのではないか。