著者
阪本 仁 寺田 直樹
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

金星は固有磁場を持たない惑星だが、太陽風との相互作用により、超高層大気中には磁場が存在する。金星の昼側の電離圏では、太陽風の動圧が低い時に磁力線がロープのようにねじれたフラックスロープと呼ばれる微細構造がしばしば観測される。Pioneer Venus Orbiter (PVO)は、昼側の下部電離圏を通過する軌道の40パーセント以上でフラックスロープを観測し、その観測頻度が170kmで最大となることを報告した[Elphic et al., 1983]。フラックスロープに関して、これまでにいくつかの生成モデル(K-H 不安定[Wolffet al., 1980], ホール効果に起因する非線形効果[Kleeorin et al., 1994]) が提案されたが、いまだにその生成メカニズムはよくわかっていない。本研究では、最近提案された速い抵抗性の磁気リコネクション[Loureiro et al., 2007]に基づく、新しいフラックスロープの生成モデルを提案する。最近提案された速い抵抗性リコネクションは、非常に横に長いSweet-Parkerタイプの電流シートの中で起こる。その成長率はルンキスト数の4分の1乗に比例し、ルンキスト数が10の4乗より大きいときに、横長の電流シートは不安定となる。MHDシミュレーションの結果[Samtaney et al., 2009]によれば、電流シート内の多数の点でリコネクションが起きたのちに、鎖状にたくさんのプラズモイドが形成される。このような鎖状の構造はフラックスロープに似ている。金星の昼側の下部電離圏においても、速い抵抗性リコネクションが起こる非常に横に長い電流シートが形成される可能性が考えられる。そこで我々は、金星の昼側電離圏において、横に長い電流シートの形成によって生じる速い抵抗性リコネクションを介したフラックスロープ生成のモデルを考察し、その適用可能性を検討した。我々が今回提案するモデルの概要は次の通りである。まず太陽風の動圧が高い状態を考えると、太陽風が運んでくる惑星空間磁場が下部電離圏まで潜り込む。次に惑星空間磁場の向きが変化し、反平行に並んだ磁場が潜り込めば、金星の昼側の電離圏で、横長の電流シートが形成される。形成された電流シートの中で、速い抵抗性リコネクションが起きることにより、フラックスロープが生み出される。我々はこのモデルの適用の可能性を検討するために、まず先行研究の金星超高層大気のハイブリッドシミュレーションの結果[Terada et al., 2002]を用いて、金星電離圏におけるルンキスト数、速い抵抗性リコネクションの成長率、Sweet-Parkerタイプの電流シートの厚み、それぞれの高度分布を求めた。得られた高度分布から、ルンキスト数に関して典型的な大きさを持つ高度をいくつか抜き出した。そして、抜き出したそれぞれの高度で、以下の2つの条件を満たすときモデルが適用可能と考察した。1つ目の条件は、速い抵抗性リコネクションが十分速く成長するという時間的な条件であり、2つ目の条件は電流シートの厚みが観測で得られているフラックスロープのねじれの半径[Elphic et al., 1983]以上になるという空間的な条件である。結果によると、およそ高度170km(ルンキスト数が10の5乗)から高度230km(ルンキスト数が10の6乗)の範囲で我々のモデルは適用可能ということが予測された。発表では、これら適用可能な高度におけるパラメータを用いたMHDシミュレーションの計算結果も紹介する予定である。

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