- 著者
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高坂 宥輝
日置 幸介
- 雑誌
- 日本地球惑星科学連合2019年大会
- 巻号頁・発行日
- 2019-03-14
2011年東北沖地震を契機に、大地震の前兆が地球の超高層大気である電離圏の全電子数(Total Electron content、TEC)変化として直前に現れることが、GNSS(Global Navigation Satellite System)衛星の2周波マイクロ波の位相差から見いだされた(Heki, 2011)。その後の数多くの地震前後のTECデータの解析により観測事実は充実していったが(e.g. He & Heki, 2017)、原因となる物理過程に関しては未解明な部分が多い。この前兆の存在は、本格的な断層滑りが始まる前に地震の最終的なサイズがある程度決まっていることを示唆し、地震学的にも重要である。現在考えられている地震直前のTEC変化のシナリオは以下のようなものである。地震直前に断層を一方の端から侵食(弱化)する過程が起こる際に、微小な割目や食い違いが岩石中に生じる。そこで過酸化架橋と呼ばれる格子欠陥が切断されて生じた電子の空隙(正孔)が電子の移動とともに岩石中を移動し、互いの反発によって拡散した結果地表に蓄積する。蓄積した正孔は大気中に上向き電場を作り、地震断層が大きい場合電場は超高層大気に達する。電離圏内では磁力線に沿った電気抵抗が極めて小さいため、磁力線に沿って荷電粒子が移動してその方向の外部電場を打ち消す誘導電場が生じる。その過程で震源上空の電離圏下端の電子密度が上昇し、逆に高高度の電離圏では電子密度が減少する。この構造は電離圏トモグラフィーで推定した2015年Illapel地震直前の電子密度異常の3次元構造からも支持される(He and Heki, 2018)。本研究では地震直前TEC変化の物理過程の解明に向けて、地震直前直後のTEC変化を、前兆が認められた18の地震(Mw7.3-9.2)について比較し、それらの間のスケーリング則を議論する。またそれらをスタックしたTEC変化標準曲線を導出し、物理過程のヒントを探す。上述のシナリオから考えると、地震とともに応力が解放され、新たな食い違いや割れ目の発生が起こらなくなると、地表の正電荷蓄積も停止し、TEC異常の成長も頭打ちになるだろう。導出した標準曲線から、地震発生時から音波擾乱が生じる約十分後までの間は、予測どおりTECは増加せず、ほぼ一定で推移することが示唆された。またTEC異常の蓄積曲線は地域性を持つ可能性がある。陸域に対する海域の割合が大きい地域の地震では、電気伝導度の高い海水中の電荷拡散が速く、電荷が地表に蓄積しにくい。そのためTEC異常の成長も早期に定常状態になるだろう。逆に陸域では電荷の消散が遅く、地震まで継続してTEC異常が成長するかも知れない。TEC標準曲線と各々の地震におけるTEC変化曲線との形の比較から、一見かなり違って見える各地震の地震前TEC上昇曲線の形の差異は小さく、地域性はそれほど顕著ではないことが示唆された。