著者
阿部 なつ江
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

地球のマントルについてどのようなイメージを持っているかと尋ねると、大抵の一般の方々は、「ドロドロしたマグマ」と回答する。これは、テレビなどで繰り返し放送されるプレート境界地震の説明アニメーションや、「地底探検(ジュール・ヴェルヌ)」や「日本沈没(小松左京)」に代表される小説や数多くの映画(センター・オブ・ジ・アースなど)の影響が強いのであろう。一般的に地下深くには「熱い物質」があるという意識から、地殻の下の“マントル”はドロドロと溶けていて、そのドロドロが何かの拍子で地表まで達すると、赤く熱せられたマグマとして噴火するのだと思われているようだ。そのようなイメージを持っているからか、2011年3月11日の東日本大震災後に数多く発生した余震を経験した関東の方達の中には、「このまま日本列島の地面がバキバキと割れて、ドロドロのマグマ(=誤った認識の“マントル“)の中へ沈んでしまうのではないか?という恐怖感に真剣に駆られている方が複数居たことに、私はその時大きな衝撃を受けた。地球惑星科学の研究を行っている我々は、日本列島が目に見える時間スケールで割れてマントルの中へ完全に沈んでしまい、今すぐ消滅するようなことはない、ということを知っている。この基礎知識を持っているというだけで、誤った恐怖感を持つことはないし、また地震などの自然災害にどう対処したら良いかも、おそらく一般の方々よりは心得ているのではないだろうか。また我々地球科学者は、自然に災害に対して、一般の方々の規範となる行動や準備を心がけている必要があると、私は考えている。本公演では、筆写がこれまでに行ってきた講義や一般への講演・普及活動でのこのような反応などを参考事例としてお話ししたい。 マントル物質の岩石学的研究を行う者として、中学理科や高校の「地学」(「地学基礎」)においては、「自然災害を正しく恐れてそれに備える」ことができる最低限の知識と、またその感覚(イメージ)が持てる教育内容を期待する。それは、現在「地学基礎」を履修する主に文系の生徒のみならず、「地学」関連以外の学科を志望する理系の生徒も含めて、少なくとも日本列島に住む者として身につけておくべき最低限の知識(地学リテラシー)を、できれば高校時代までに必修科目として身につけておいて欲しいという願いがある。現在高校「地学基礎」の範囲で網羅している内容は、必要十分であるが、地学(さらに地理)に限らず、自ら考え行動するための知識としての「科学リテラシー」を身につける教育を切に望んでいる。これは、2016年の日本学術会議提言「これからの高校理科教育のあり方」*1において「理科基礎(仮称)」を必修科目として新設すべきであるという提言を行っている完全に沿うものである。また、防災・減災のみならず、ブラタモリで証明済みの娯楽としての、そしてその先にある歴史を紐解くツールとしての地学・地理学の奥深さを、味わって欲しいと願っている。

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