著者
上野 矗 ウエノ ヒトシ Hitoshi UENO
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要
巻号頁・発行日
vol.5, pp.25-33, 2006-01-31

経験的現象学的方法から涙に関するこれまでの研究を通じて、勘が質的な意味分析法に基礎的かつ重要な認識方法として注目されてきた。勘は、人間科学の方法として直感的方法のひとつとして位置づけられるからである。黒田亮によれば、勘は覚=Comprehensionを、竹内によれば、第六感を意味する。勘は、黒田亮の心的立体感(psychical stereoscopy)、また黒田正典の人のゲシュタルト化された経験の総体の重心にある。筆者は、これを相反し合う経験の統合点にみる。いずれにもせよ、勘は、二分思考法にではなく、統合的思考法に依拠している。こうした意味及び実践の実際からも、勘は、臨床心理学の方法論上有意義で重要な認識方法と位置づけられる。と同時に、なお一層の検討が要請されよう。
著者
上野 矗 ウエノ ヒトシ Hitoshi UENO
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要
巻号頁・発行日
vol.4, pp.63-74, 2005-01-31

ここでは、ショッキングな出来事を契機に人間不信に陥ったケースを例示し、援助的理解をはかるT様グループのかかわり合いのプロセスに経験的現象学的方法による意味分析を試みる。そこから感情体験表明としての涙が援助的理解にとってもつ意味と効用に関して検討を加えようとする。 検討結果は、次のようである。 1)感情体験表明としての涙がその意味と効用たらしめるのには、送り手と受け手の反応の仕様が大きくあずかっている。 2)涙は心理的なしこりを溶かす。 3)涙は抑制された情緒的エネルギーを解放し、カタルシスをはかる。 4)涙は心の傷を癒す。 5)涙は気づきや洞察への契機となり、導き手となり、その証明を確認する。 6)涙は援助的理解を確実にし、また深めていく。 7)涙は、人をして生涯時間の時制を"生きられた時間"の展望に向けた再編成をはかり、そこから新しく生産的で健やかな生活世界への道を開らく。すなわち、過去をいまに引き入れ既往化し、新しい意味づけを見い出し、これを足場に、未来を将来化し、新しい展望を拓らくのである。 8)なお、涙は、丁度ステロイド剤がそうであるように、両刃の刃で、その効用と同時に有害ともなりうるとの認識の重要さが指摘される 。