著者
オルトナスト ボルジギン
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学社会文化科学研究 (ISSN:13428403)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.61-80, 2005-09-30

モンゴルの遊牧民はそれぞれの地域において神聖視された山または小高い丘や湖のほとりに石・樹木等を円錐型に積み重ねたオボーという造営物を作って、毎年定期的に祭りを催す。それはオボー祭りと呼ばれ、遊牧共同体の繁栄、家畜の繁殖等を祈願する宗教的行事でもある。オボーは土地の神の依代として信じられ、遊牧民の自然観と世界観とが凝縮されている。現在でもモンゴル遊牧地域における遊牧共同体が各々のオボーを所有しており、オボー祭りは集団的アイデンティティの確認または強化の重要なメカニズムとして表象されている。オボーの形態と祭祀は地域によって多少異なるが、テンゲル(天神)やガジル(地神)を祭る宗教行事として、またより具体的にはノタグ(共同体の所有地)の神の祭祀として認知されている点で共通している。オボー祭りにはブフ(モンゴル相撲)、競馬などの伝統技が奉納され、伝統文化の伝承母体ともなっており、現代化が進む今日において注目に値する祭祀文化であろう。本稿はオボーの造営、つまり構造を現地調査に基づいて分析するものである。