著者
バンス ティモシー・J
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.207-214, 2015-07

長年にわたる日本語の連濁研究の結果,制約は色々見出されているが,すべて傾向に過ぎず,包括的な規則はないということが明らかになっている。しかし,21世紀に入り,ローゼンが連濁現象を新鮮な目で見て,独創的な成果を上げた(Rosen 2001, 2003)。「ローゼンの法則」とは,複合語の前部要素と後部要素が両方とも和語名詞の単一形態素であれば,どちらか(または両方)が3モーラ以上の場合は,連濁の有無が予測できるという旨の仮説である。具体的に言うと,これらの条件を満たす連濁可能な複合語は,後部要素が連濁に免疫がない限り,必ず連濁するという主張である。反例がまったくないわけではないが,きわめて強い傾向であることは否定できない。本稿の目的は,以下の三つである。まず,第1〜2節でローゼンの研究を簡潔に紹介する。次に,第3〜5節で和語名詞単一形態素以外の要素を含む複合語に考察を広げ,要素の制限を緩和しても,ローゼンの法則がある程度当てはまることを示す。最後に,第6節でローゼンが提案した理論的説明に着目し,残念ながらこの説明は説得力が乏しく,法則の根本原因は依然として謎であることを指摘する。