- 著者
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辺 清音
Qingyin BIAN
ビアン チンイン
- 出版者
- 総合研究大学院大学文化科学研究科 / 葉山町(神奈川県)
- 雑誌
- 総研大文化科学研究 = Sokendai review of cultural and social studies (ISSN:1883096X)
- 巻号頁・発行日
- no.14, pp.87-108, 2018-03-31
華僑・華人研究において、近年のチャイナタウンの変貌が大きな問題の一つとなっている。本稿は日本の神戸市にあるチャイナタウン――南京町でおこった再開発とそこから生み出された店舗の変容について、人々の現場での実践をもとに論じる。1970年代から再開発されてきた南京町は、現在では観光地化され、主に飲食店や雑貨店が集中する商店街になっている。本稿は、南京町を研究対象に、店主や従業員がチャイナタウンで商売することに応じて店舗の独自性をいかに作り上げるのかを明らかにすることを目的とする。本稿で、事例とした三つの店舗は、華僑が経営する香港式茶餐庁と台湾式小籠包店、日本人夫婦が経営する中華らしい要素のある土産を扱う雑貨店である。事例1の茶餐庁は店主が両親の時代から血縁、業縁などに結ばれたネットワークを活かし、祖先の故郷である香港の庶民的な食文化を南京町で再現している。事例2の小籠包店は、業縁のある食品工場を通して、台湾から最新の小籠包量産技術を取り入れてフランチャイズの形で商売活動を展開している。さらに、華僑のように香港や台湾、中国大陸との天然な紐帯がない事例3の雑貨店の日本人店主は、日本の商社を通して中国産の中華らしい要素のある土産の仕入れと中国人従業員の採用によって商売関係を作り出してチャイナタウンでの生き残りの道を模索している。本稿は、店主と従業員たちが店舗の独自性を作り上げる日常の商売活動の中で、日本の地域社会、香港や台湾、中国大陸とのつながりを生かし、モノや情報を戦略的に選択する過程を検討する。それによってチャイナタウンの抽象的な「中華らしさ」を店舗の中に具体化して店舗を変容させたと主張し、店舗における多元的・多変的・共時的な「中華表象」が構築されてきたと結論付けた。本稿は華僑や日本人を含む地元の人々が経営している店舗――食をはじめ、雑貨などのモノによる「中華らしさ」を演じる場、に注目することによって、日常的なチャイナタウンを考察する一つのアプローチを模索したい。