著者
森田 久司 モリタ ヒサシ Hisashi Morita
雑誌
紀要. 言語・文学編
巻号頁・発行日
vol.37, pp.41-67, 2005-03-30 (Released:2013-10-09)

この論文では、実際に音韻的に強調された語が、意味的にどのような影響をあらわし、その影響が統語的にどのように派生されるか、すなわち、日本語と英語、特に日本語のフォーカス現象を考察する。日本語のデータは主に、強調される旬に結びつく、係助詞の「も」について取り扱う。日本語のフォーカスにおいて三つの現象が見られる。一つ目は、音韻的に強調された語よりも広範囲の強調の意味を取ることができる。二つ目は、強調を促す、「も」や「さえ」といった係助詞自体が強く発音されると、音韻的に強調された語よりも広範囲の強調の意味を取ることができなくなる。三つ目は、強調の意味が広がることはあっても、となりの語句にずれることはない。英語に関しても、一つ目と三つ目の現象に関して、同様なことが観察されている。これらの現象を説明するために、DIと呼ばれる目に見えない範疇が、意味の強調範囲をマークする場所に基底派生され、音韻的に強調された語と組成チェックを行うと主張する。したがって、音韻的に強調された語よりも広範囲の強調の意味を取れるといった現象は、フォーカス素性が素性浸透といった、実際に存在するのかどうか疑わしいメカニズムを経て、強調の範囲を拡大したためではなく、最初から、その範囲がDIにより決定されていることがわかる。さらには、強調の意味が隣の語句にずれない現象も、DIが音韻的に強調された語と組成チェックにできる位置に基底派生されなければいけないことから説明できる。以上のように、DIの存在を仮定することにより、日本語と英語のフォーカスの現象をシンプルに説明できる。 In this paper I would like to offer a simple account of focus phenomena in Japanese and English. There are a few interesting features with regard to focus. First, the domain of focus may be wider than a phonologically stressed portion. Secondly, the positions of certain scope markers, which seem to induce focusing, are important when deciding the domain of focus. Thirdly, the domain of focus seems to expand, but does not shift. This paper will discuss these features and offer an account from which the features automatically follow. This paper is organised in the following order. I will introduce a few important facts about the focus phenomena in Japanese and English. Then I will review Aoyagi (1998), who attempts to account for the focus phenomena in Japanese. After mentioning a few problems with his approach, I will present an alternative account.