著者
伊藤 康江 塩見 一雄 三枝 静江 細井 知弘 三枝 弘育
出版者
東京都農林水産振興財団東京都農林総合研究センター
雑誌
東京都農林総合研究センター研究報告 (ISSN:18811744)
巻号頁・発行日
no.10, pp.1-13, 2015-03

食物アレルギーの原因食物は多岐にわたり,成人では,小麦,甲殻類,果物類に次いで,魚類が原因食物の第4位となっている。本研究では,東京都の島しょ地域において漁獲・利用されている3魚種-ゴマサバ,ハマトビウオ,ムロアジ-に含まれるアレルゲンタンパク質パルブアルブミンについて,enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)による定量系を新たに確立するために,分取した各魚種のパルブアルブミン異性体と抗体3種との結合活性を検討し,定量に適する抗体として抗コイパルブアルブミンモノクローナル抗体を選定した。次に,確立したELISA法により,複数のムロアジの生魚およびくさやの背肉に含まれるパルブアルブミンを定量した。その結果,くさやのパルブアルブミン量は,生魚と比べて明らかな減少は認められず,微生物を含むくさや液を用いてムロアジをくさやに加工しても,パルブアルブミンは顕著に分解されないことが判明した。一方,ゴマサバ,ハマトビウオ,ムロアジそれぞれを原料魚とし,Aspergillus oryzaeを使用した麦麹と醤油製造用酵母Zygosaccharomyces rouxiiを用いて,常温で6ヵ月間発酵後に圧搾および火入れを行い,4℃,1年間保存した魚醤油においては,パルブアルブミンが1μg/g未満に減少した。また,麦麹より分離したA. oryzaeおよび食品や酵素の生産等に利用されている糸状菌株A. oryzae,A. brasiliensis,Penicillium pinophilum,P. chrysogenum,P. biforme,Rhizopus microsporusは,マサバパルブアルブミンの分解活性を有していたが,魚加工品を分離源とする乳酸菌株Pediococcus pentosaceusおよびLactobacillus plantarumのマサバパルブアルブミンの分解活性は低かった。以上の結果は,抗体を用いたパルブアルブミンの定量には魚種ごとに適した抗体を用いる必要があること,および特定の微生物を利用した発酵によりパルブアルブミン量を低減させた魚加工品が製造可能なことを示唆している。