著者
中居 寛明 宮本 九里矢 三澤 慧 今井 康仁 粟飯原 周二
出版者
日本計算工学会
雑誌
日本計算工学会論文集 (ISSN:13478826)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.20160003-20160003, 2016

パイプラインにおける高速延性き裂伝播は大規模な破壊事故に繋がるために, その防止設計は非常に重要である. パイプラインにおける高速延性き裂の駆動力は, 内部ガス圧であるが, 軸方向のき裂伝播に伴いパイプが変形しながら開口するために, その開口からガスが漏出することで内部ガス圧の減圧がパイプ内で進行する. つまり, き裂伝播とその駆動力である内部ガス圧の減圧進行が同時に起きており, 減圧の進行速度がき裂伝播速度に対して速い場合は, き裂先端で内部ガス圧が低下し駆動力を失いき裂が停止し, 逆に, き裂伝播速度が減圧進行速度に対して速い場合は, き裂先端で内部ガス圧が保持され続けるために駆動力が提供され続けてき裂は停止することなく伝播し続ける. また, ガスの漏出量はパイプ開口の大小, つまりパイプ変形の度合いによって変化し, 結果的に内部ガス圧の減圧に影響を及ぼす. このように, パイプラインにおける高速延性き裂伝播は, 内部ガス圧の減圧, パイプ変形及びき裂伝播が互いに影響しあう複雑な現象であり, 流体構造破壊連成現象であると言える. <br>パイプラインにおける高速延性き裂の既存の評価手法として広く採用されているものがバテル2曲線法である. この手法では, き裂伝播抵抗曲線(き裂先端位置の圧力とき裂伝播速度の関係)と減圧曲線(圧力と減圧の進行速度の関係)の比較によって高速延性き裂伝播発生の有無を判定する. バテル2曲線法は, その簡便さによって広く用いられるに至ったが, パイプの変形及び各現象間の相互影響は考慮されてない. さらに, き裂伝播抵抗曲線は実験的に定式化されており, 実験式を得るためには非常に高額な実大パイプラインバースト試験を複数回実施する必要があり, 実験式の適用性を広げるのは経済的に困難となる場合が想定される. また, 有限要素法に基いた詳細な三次元の解析手法も提案されてきたが, それらはパイプラインの設計ツールとしては用いられていないのが現状である. その理由としては下記の二点が挙げられる. まず, 非常に複雑な流体構造破壊連成現象を精度よく記述することが困難であることが挙げられる. 特に, き裂伝播条件については未だ不明な点が多く残っているため, 連成現象を考慮し, かつ, ガスの減圧及びパイプの変形を精緻に記述できているものの, き裂伝播条件の記述における精度不足が全体の精度のボトルネックとなっている. 次に, 三次元有限要素解析の特質上, , 計算に莫大な時間を要するために, 複数回の計算を要する高速延性破壊防止設計に不向きであることが挙げられる. <br>以上の背景より本研究では, 連成現象を考慮しつつ可能な限り簡潔な流体構造破壊連成一次元モデルを構築した. 本モデルの特徴を次に示す. <br>(1) き裂開口からのガス漏出を考慮してパイプ内のガス減圧を定式化し, 一次元のガス減圧モデルを構築した. <br>(2) パイプ断面の変形形状を小径アルミバーストテストの計測結果より一つの変数で定式化し, それに基づいて一次元のパイプ変形モデルを構築した. また, パイプが地中にある場合の変形抑制効果を付加質量を用いて定式化した. <br>(3) き裂が微小伝播する際に定常伝播すると仮定し, き裂の伝播条件を動的エネルギー平衡条件より定式化した. <br>(4) 一次元で定式化されたガス減圧モデル及びパイプ変形モデルは有限差分法に基いており, き裂伝播条件と合わせて時間ステップを刻みながら順に解くことで各現象間の連成現象が考慮された解を得ることができる. <br>(5) 内部ガスとして天然ガスや炭酸ガス等の混合気体及び単相気体を幅広く扱うことが可能であることに加えて, いかなる鋼管の機械特性及び形状も扱える適用範囲の広い数値モデルである. また, 本モデルは, フルスケールバーストテストの解析時間が2~3時間と非常に短いために, 多くの計算数を要するパイプラインデザインのための数値ツールとして使用されることが今後期待される. <br>本報では, 本モデルの詳細な定式化及び計算例を記述している. 次報において, 本モデルの妥当性検証及びパイプラインにおける高速延性き裂伝播の影響因子解析を実施する.