著者
上村 剛史 横井 成行
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

学校教育においては,日常生活や社会の様々な事物を,教科・科目に細分化し学習している.中学や高等学校では,教科ごとに専門の教員が授業を行うが,教室での生徒は受身であることが多い.それに対して,身の回りにある事物は,色々な教科・科目の内容が混在しており,それを取り巻く様々な社会的な問題は,複雑かつ解決困難であることが多い.そのような問題に向き合うためには,対象となる事物を多角的に捉え,異分野の人たちと協力し,粘り強く取り組む力が必要である.そこで,演者らは前任校で同僚教員と協力して,中学3年から高校2年の希望者15名程度を対象にした「総合フィールド演習」という講座を2017年に立ち上げ,2年間にわたり実施した.この講座では,学習対象を「地域」と設定し,多様な参加者が「地域」を実際に歩いて観察することで,総合的に「地域」を捉えることを目的とした.担当教員は,地学,日本史,国語と異なる教科・科目の教員で構成され,できるだけ生徒と同じ目線に立って議論しながら,共に学ぶ態度を大切にした.また,あらかじめ学校内で参加者での話し合いの機会を何度も設け,そこでの提案や希望に基づいて訪問先を設定した.実際のフィールドワークは,学校近隣の品川から始まり,神事でつながる府中へと発展して計3回行った.また,夏休みを利用して大阪で2泊3日のフィールドワークも行った.例えば,大阪でのフィールドワークでは,上町台地という地形とその周辺の文化財を中心に巡りながら,1400年以上の長い歴史を持つ四天王寺を訪れた.まず四天王寺の参道から西側に見える大きな下り坂を前に,地学教員が上町台地を形成した断層運動と坂道の関係を説明する.次に,日本史教員が境内の歴史的建造物を案内しながら,安政地震津波碑の存在を紹介する.この碑は,1854年に起こった安政南海地震と安政東海地震による犠牲者の供養と災害の記憶を後世に伝えるため,町人によって四天王寺の境内に建てられたものである.実際の碑の前に行くと,生徒は日本史と国語教員と議論しながら,碑文の解読を始める.さらに,安政の地震津波については,日本史と地学の教員が先導して話が弾む.四天王寺の見学が終わると,上町台地の下り坂周辺の寺社仏閣をもう少し歩いてみようと,再び歩き始めるというような形でフィールドワークが進んでいく.このようにして,日本史で四天王寺の成り立ちを,地学で上町台地のような地形の形成を,国語では古典や漢文をというように,普段は切り分けてきた教科・科目の枠がなくなり,目の前にある事物を取り囲んでいる歴史や地形などの要素が混在していることが実感できた.また,大きな方向性は教員側で誘導しても,途中で生徒の反応を見ながら臨機応変に変更し,生徒や教員という立場を相互に変えながら,主体的で深い学びを行うことができた.
著者
清水 彬光 上村 剛史
出版者
日本水文科学会
雑誌
日本水文科学会誌 (ISSN:13429612)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.3-16, 2018-04-27 (Released:2018-05-25)
参考文献数
28
被引用文献数
1

新宿区立おとめ山公園の自然湧水とその周辺にある井戸の地下水面標高を対象に,7年間以上(湧出量:2009年4月~2016年1月,地下水面標高:2011年9月~2015年5月)に渡ってモニタリング調査を行った。近接する観測地点の降水量から地下水面標高を推定するタンクモデルを構築したところ,地下水面標高の変動が高精度(NSE=0.993,RMSE=0.221 m)で再現された。その上で,タンクモデルを広域に適応できるという仮定の下,解析雨量を利用して公園周辺の涵養域に関する考察を試みた。まず,5つの涵養域候補を設定し,それぞれの平均降水量を算出した。続いて,タンクモデルのパラメーターは固定して,5つの降水量から算出される地下水面標高と実測値とを比較し,NSE, RMSEを用いた結果,NSEが最大,RMSEが最小となる範囲があった。本稿では,この範囲が涵養域であると直ちに結論付けることはできないが,今後適切なモデルを構築できれば,解析雨量とタンクモデルを用いた分析を涵養域推定の一つの方法として用いることができる可能性が示された。また,水質調査の結果,晴天時と比べて大雨時におけるSiO2濃度・電気伝導度の優位な低下が見られず,おとめ山公園では地中の古い水が押し出されて湧出している可能性が示された。