著者
下田 義男
出版者
The Medical Association of Nippon Medical School
雑誌
日本医科大学雑誌 (ISSN:00480444)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.173-183, 1934

以上私ハ強迫性神經症者ノ一治驗例ヲ擧ゲ,其ノ本態竝ビニ治癒機制ニ就テ若干ノ分析考察ヲ加ヘテ見タ。今茲ニソノ要點ヲ再摘シテ見ルト,<BR>1. 本例患者ハ12歳癩病恐怖ヲ主徴候トシテ發病,爾來8年間症状ハ漸次増惡遂ニ現實的生活ノ積極的部分ヲモ犠牲トスルニ至ツタ強迫觀念症患者デアルガ,治療開始以來20日餘デ治癒ノ域ニ達シタモノデアル。<BR>1. 強迫神經症ノ本態ハ一定ノ基調的性格ニ何等カノ外部的原因ノ加ツタモノト認メラレル。<BR>1. 本症ノ基調的性格トシテハ,先ヅ性格ノ概念ヲ人ノ組織生物學的根據ノ上ニ立ツ氣質ニ後天的諸條件ノ影響シテ構成セラレルモノトスルト,本例患者ノ性格ヲ分析的ニ考察シタ結果ニ依レバ,クレツチユメルノ乖離性氣質ニ見ラレル「自己内生活」的傾向ト偏執病者ノ有スル偏執的傾向ニ精神幼稚性ノ加ツタモノトシテ説明スルコトガ可能デアル。カカル性格ハ理論的ニハ本症ノ基調的性格トシテ適切デハアルガ,他ニモ普遍的實在的デアル事ヲ證スルタメニハ更ニ多數例ノ觀察ニ俟ツノヲ妥當トスル。<BR>1. 本症ノ發生機制ニ就テハ,探索ヲ意識範圍ニ限局スル場合殆ンド説明不可能デアル。精神分析派ノ説明ニハ聽クベキ所多イト考ヘラレルガ未グ終極的結論ハ此方面カラモ得ラレナイ<BR>1. 本症ノ治癒機制ハ「矛盾」ノ體驗的認識ガ性格構成ノ後天的部分ニ或ル修正ヲ齎ラシ,之レガ強靱ナ意志ト俟ツテ症状ノ解消ヲ來スモノト考ヘラル。故ニ本症ニ在ツテハ治癒ハ基調性格ヲ遺シテノ症状ノ消失デアリ。此ノ意味ニ於テ比較治癒ナル語ガ適當デアルト考ヘラレル。擱筆ニ當リ御校閲下サツタ齋藤玉男先生,御鞭韃下サツタ長澤米藏先生及ビ種々御配慮下サツタ森崎院長,杉尾副院長ニ深甚ノ感謝ノ意ヲ表スルモノデアル。