著者
中張 隆司 大黒 恵理子 島本 史夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.57-65, 2011-01-15

はじめに 気道上皮の管腔側膜には多数の線毛が存在し,線毛層の上は気道表面粘液層で覆われている.吸入された異物や微小粒子(細胞破砕物,細菌など)は,気道表面粘液層に捉えられ末梢気道から中枢気道へ輸送され,体外へ排泄される.この気道における異物,微小粒子の排泄機構は粘液線毛クリアランスと呼ばれ,肺の宿主防御機構の一つである1~5).粘液線毛クリアランスは,いわば気道における異物運搬のベルトコンベアーシステムであり,気道表面粘液層はコンベアーベルト,線毛運動はモーターに相当する1~6).気道線毛細胞の機能不全(線毛細胞の消失,線毛運動の低下)は粘液線毛クリアランスの低下を引き起こす1~5).特定の遺伝子の障害により全身の線毛運動(脳室,気道,卵管,輸出精細管,精子)が低下あるいは消失している線毛運動無動症,いわゆるKartagener症候群(内臓逆転症,副鼻腔炎,気管支拡張症)では重篤な呼吸器疾患を合併してくる1,4,5). これまでの研究で,気道線毛運動は様々な物質(アセチルコリン,ホルモン,ATP,Ca2+,cAMP,cGMP)により活性化され2,4,6~10),また様々な因子(細胞容積,浸透圧,細胞内Cl-濃度など)により修飾を受けることが明らかにされている9,10).日常診療に広く用いられているβ2刺激薬も気道線毛運動を活性化する薬剤の一つである7,10). 一方で,気道線毛運動周波数(ciliary beat frequency;CBF)は8~25Hzと非常に早く,これまで光散乱など,CBFを測定するいくつかの方法が用いられてきたが,様々な制限があり測定そのものが難しかった2,4).近年,ビデオ光学機器(光学顕微鏡を含む)と高速度カメラの発展により,高時間分解能(1/500~1/1,000秒)で線毛運動の観察記録が可能になった6,8,11).本稿では,われわれが数年前から行ってきた高速度カメラを用いた気道線毛運動の解析結果を紹介する.