著者
神保 元二 井上 外志雄
出版者
粉体工学会
雑誌
粉体工学研究会誌 (ISSN:18838766)
巻号頁・発行日
vol.10, no.6, pp.349-354, 1973-07-01 (Released:2010-08-10)

寒い冬の午後, 杉並, 和田本町のお住居にお邪魔して, いろいろとお話を伺った。 環状7号線に近い先生のお宅は, しかし静かな住宅街の中で大小さまざまな樹々に囲まれ, 先生のお人柄を偲ばせるかのようにしっとりしたたたずまいを見せていた。招じ入れられた客間は私たちの訪問を予期してであろう, 四角いけやきの火鉢に今は珍らしい炭火がおこしてあり, さらに電気ストーブなどで柔かく暖められていた。 床の間には先頃の小正月に俳句のお弟子さんたちが贈られたという繭玉が飾られていた。 というのも, 山口吉郎先生は東京大学工学部鉱山学科 (現在の資源開発工学科の前身) で選鉱学の教授をしておられたのであるが, 俳句の方でも知らぬ人はない存在であり, 高浜虚子の高弟であった先生は現在に至る半世紀近くもの間, 山口青邨の俳号をもって同人誌「夏草」を主宰してこられた方だからである。書棚には御自身の多数の著書をはじめとして種々の文学書が並べられており, 先生御自身は「道楽」と呼んでおられる俳句の方面でのお仕事ぶりが窺い知られた。軽い感動を覚えながら室内の調度などに目をやっているうちに, 傘寿を過ぎたとは思われない若々しくお元気な和服姿で先生がヤアヤアと出て来られた。