- 著者
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仲地 廣順
- 出版者
- 社団法人日本産科婦人科学会
- 雑誌
- 日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
- 巻号頁・発行日
- vol.34, no.12, pp.2235-2243, 1982-12-01
- 被引用文献数
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先天性ト症の診断に役立てる目的で,ト抗体価陽性を示す妊婦55例とその児56例(双胎1例を含む)を対象とし,母体では妊娠各時期,分娩時および産褥1カ月時に,児では生後1年まで定期的に血清中のIgG,IgM,IgA,IgGト抗体価およびIgMト抗体価を測定し,これらの値の母児間の相関々係を検討するとともに,ト抗体価陽性妊婦より出生した児の臍帯血より生後1年目までのIgGト抗体価の値よりト抗体価の半減期を求め,その減衰曲線を作成して,以下の結果を得た.1.妊婦ト症での免疫グロブリン定量値はその抗体活性を表す指標にはなりにくい.2.母体のIgMト抗体価が陽性でも,ほとんどの児にこれを認めない.また,単一検体によるIgGト抗体価およびIgMト抗体価から急性か慢性かの判断は困難なことがある.3.妊娠中のIgGト抗体価の測定値は,分娩時の値が児の生後1年間の推移と最も高い相関を示す.4.分娩時の母体血と臍帯血のト抗体価の比較で,母体=臍帯(A群),母体>臍帯(B群),母体<臍帯(C群)の3群に分けて,児の出生後のト抗体価の推移をみると,A群とC群では生後1年,B群では生後6ヵ月で全例陰性となる.5.出生の直後(臍帯血)から1ヵ月,1ヵ月から3ヵ月,3ヵ月から6ヵ月までのト抗体価Xと半減期Tは,それぞれ,X=N_0×2^<-(1.345±0.510)×t/30>,16.18日<T(平均22.31日)<35.93日.X=N_0×2^<-(1.125±0.698)×t/60>,32.91日<T(平均53.33日)<140.5日.X=N_0×2^<-(1.667±1.434)×t/90>,29.03日<T(平均54.00日)<386.8日.(N_0=初期値,t=day)と表すことができる.6.半減期から移行抗体の減衰曲線を作成し、出生後のト抗体価がこの曲線より高く逸脱する例に,先天性ト症の疑いがあると思われる。