著者
花里 孝幸 荒河 尚 佐久間 昌孝 張 光玄 沖野外 輝夫
出版者
The Japanese Society of Limnology
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.151-167, 2001
被引用文献数
16

これまでなされた研究成果を基に,諏訪湖の動物プランクトンの群集構造と生態系における役割についてまとめた。諏訪湖の動物プランクトン群集では,春にはワムシ類が優占し,夏から秋にかけては優占種が小型枝角類に変わった。優占種とそれらの季節変化は1960年代から1990年代に至るまで大きな変化はなかったようにみられる。諏訪湖では2種のBosmina,B.longirostrisとB,fatalisの遷移に季節的に明瞭な交互性が見られる。すなわち,B,longirostrisが春と秋に優占し,B.fatalisが夏に優占する。B.fatalisの夏の優占度と夏の平均水温やクロロフィル量との間に正の相関が見られたことから,その優占にはアオコの発生が何らかの関わりを持っていることが示唆された。湖沼生態系のしくみを理解するため,大型の隔離水界を諏訪湖に設置して実験的な解析が行われた。それにより,諏訪湖における動物プランクトンに係わる食う一食われる関係や競争関係などの生物間相互作用が明らかにされた。また,沖帯だけでなく沿岸域の水草帯の動物プランクトン群集も調査され,水草帯が複雑な環境を作ること,それが動物プランクトン群集組成に影響を与えることが示された。これらの結果から,諏訪湖の動物プランクトン群集には高い魚の捕食圧がかかっていること,夏の食物連鎖では腐植食物連鎖が卓越していることが指摘された。