著者
佐藤 匡司
出版者
千葉大学
雑誌
千葉医学会雑誌 (ISSN:00093459)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.907-911, 1959-07

生体内の燐酸エステルの有する代謝上の意義は甚だ大きいが, phosphorylaseによる無機燐酸からのエステル形成は別として燐酸化合物からの燐酸転位はKinase作用によりnucleotide等の高エネルギー燐酸化合物から行われることは周知のことである。所がp-nitrophenyl燐酸が酸性phosphomonoesteraseにより水解される時グリセリン,アルコールのようなOHイヒ合物が共存すると,それ等の燐酸エステルが形成されることがAxelrodやAppleyardにより初めて報告された。また他方アルカリ性酵素でもMeyerhof及びGreenは高エネルギ一燐酸化合物を供与体として用いた際に行われる燐酸転位量は供与体のエネルギー荒に比例することを報告したが, Axelrod, Oesper, Mortonの酸性酵素及びアルカリ酵素を用いての成績によると,そのよぅな比例関係は必ずしも成立しないことを,これと前後して西堀は燐酸転位が諸型monoesteraseによりても行われることを認め,その転位機序を論している。p-nitrophenyl燐酸ethylesterがdiesteraseによりp-nitrophenolとethyl燐酸とに水解されるときもOHイヒ合物が共存するときにはそのOH化合物とethyl燐酸との結合せるdiesterが形成される。これ等の現象はp-nitrophenyl燐酸またはそれのethylesterが酵素に対し強い親和性を有し,また水解され易いに比し酵素表面における転位反応により形成される新モノエステルまたジエステルよりは酵素に対する親和性と被水解とにおいて劣ることによると説明された。したがつて燐酸転位が行われるには,まず燐酸の活性化を要すると考えられるので,私はphosphosalicyl酸を燐酸供与体として共存OH化合物の燐酸エステル化を試験した。この化合物を供使したのは,その等moleのsalicyl酸と燐酸とを生ずる自家水解がpH 5.6にて極大でありこのpH 5.6における自家水解はCu^<++>により促進され,他方自家水解を被り難いpH 2の水溶液中にてFe^<++>が顕著なる水解促進を示すとの前報告の所見にもとずき,これらの水解反応において遊離する燐酸が新たなエステルを形成するか,すなわち燐酸転位が行われるかを験し,これと酵素的に営まるべきphosphosalicyl酸からの燐酸転位とを比較した。