著者
保髙 隆之 舟越 雅
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.12, pp.2-19, 2023-12-01 (Released:2023-12-20)

今後のメディア動向を占うデジタルネイティブの先駆けとして注目される「Z世代」。文研はZ世代とテレビの今のリアルな距離感とこれからの関係を探ることをめざし、文研フォーラム2023で「Z世代とテレビ」と題したシンポジウムを行った。 登場した大学生たちの発言からは、従来の据え置き型テレビでリアルタイム視聴することがいまの学生の生活に合わないこと、情報源を目的に応じて使い分けていることが分かった。Z世代の多彩な情報源の中でも存在感があったのがSNSで、中でも10代後半を中心に利用率が高かったのがTikTokだった。政治系の動画も視聴されていたが、専門家からはショート動画ならではのミスリードやフェイクニュースの危険性の指摘も出た。 またZ世代の特徴とされがちな「タイパ(タイムパフォーマンス)」について、学生へのインタビューと文研の調査で実態に迫った。倍速視聴はすべてのコンテンツではなく、内容によって行われること、切り抜き動画の視聴については時間短縮だけが目的ではなく、編集した人の「面白いものを見せたい」という思いへの信頼も背景にあった。 最後に、学生たちから「これからのテレビ」に向けて提言があった。「テレビはストレスフリーになって」「テレビは謙虚になって」など、Z世代の合理的なメディア選択の対象に入るためのテレビへの期待と不満が明らかになった。
著者
保髙 隆之
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.20-45, 2019

インターネット上の真偽不明な情報「フェイクニュース」の拡散や、検索履歴などから自分の好みに合った情報ばかりに囲まれる「フィルターバブル」など、インターネットやSNSの普及によって、情報の選択的接触が社会の分断を生じさせている可能性が指摘されている。人々はいま、どのように世の中の動きを伝えるニュースや情報に接し、何を重視しているのだろうか。ネット系メディアの利用と、人々の意識や価値観はどのように関係しているのだろうか。また、社会に何らかの「分断」は存在しているのだろうか。2018年6月に実施した「情報とメディア利用」調査の結果では、若年層と高年層の間で、日常的に利用するメディアが大きく異なっており、情報への意識では、「今の社会は情報が多すぎる」という人が、全体で8割を超えていた。一方、「自分が知りたいことだけ知っておけばいい」という人は、全体で3割だが、SNS利用が多い若年層では4割前後と多かった。さらに、関心のある情報のジャンルについて尋ねたところ、若年層では、政治・経済・社会の情報に対する関心が低く、そもそも関心のある情報のジャンルも少なかった。情報過多時代に、人々は、インターネットで「知りたいことだけ」に合理的に接触している一方、そうした選択的接触が、これまでマスメディアが形成してきた情報基盤の「分断」につながっていることが垣間見える結果となった。
著者
保髙 隆之 阿曽田 悦子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.2-33, 2021 (Released:2021-11-20)

新型コロナウイルス感染症の拡大が、生活者のテレビとインターネット動画の視聴にどのような影響を与えたか、背景にある意識とともに探る。NHK放送文化研究所が2020年11月に実施した世論調査「コロナ時代のテレビの価値」の結果では、若年層だけでなく40代でも、コロナ禍で動画利用時間が増加した人(以下、動画増加者)が、テレビの視聴時間が増加した人(以下、テレビ増加者)を上回った。テレビ増加者と動画増加者の意識を比較すると、テレビ増加者では感染に不安を抱く人やテレビに親近感を感じている人が多かった。一方の動画増加者では、番組を毎回決まった時間に見るのは面倒だと感じる人や、メディア報道に懐疑的な人が多かった。 また、動画利用者のメディア利用について、コンテンツのジャンルと生活場面別に詳しくみると、ジャンルでは「趣味・実用」を「動画のみ」で視聴する人の割合が高く、関連で実施したウェブ調査の参考データでは、地上波では見られない多様な内容を視聴していた。生活場面では、テレビが食事どきに視聴を増やすのに対し、動画は夜間のプライベートな時間に視聴が集中した。ウェブ調査の結果からは、夕食中にテレビ画面で動画を家族視聴する人がいるなど、今後、伝統的なテレビと動画の視聴スタイルが変わっていく可能性もうかがえる。
著者
保髙 隆之 山本 佳則
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.36-63, 2019

NHK放送文化研究所が2018年11月に実施した「メディア利用動向調査」(全国16歳以上の男女を対象,有効数2,264人)の調査結果を報告する。主なポイントは以下の通り。①4K・8K放送…認知率は、「4K」(76→83%),「8K」(55→70%)ともに前年から増加した。一方,新4K衛星放送に対応した機器の所有者は2%にとどまった。対応機器がない人の7割は購入意欲がなく、理由としてもっとも多かったのは「現在の地上放送、衛星放送で十分だから」だった。②放送のインターネット同時配信…認知,利用意向は,いずれも4割程度あり、特に男50代以下の各年層と女29歳以下では利用意向者が5割近い。59歳以下の利用意向者でみると、テレビの短時間視聴者の割合が高く、テレビの「ライトユーザー」に受け入れられる可能性がある。③動画配信サービス…「YouTube」の利用者が5割を超え、他を大きく引き離しているが、「Amazonプライム・ビデオ」(8%),「TVer」(5%)などが前年から利用者を増やした。また、有料動画配信サービスについて,加入者が前年から増加(7→14%)したのに加え、加入の可能性がある「加入検討中」「様子をみている」との合計も増加した。一方で、「加入意思なし」も5割程度おり、前年から変化がなかった。そのほか、「テレビのインターネット接続」「メディアの信頼度とニュースサイト・アプリの利用」についても報告する。