- 著者
-
光田 重幸
- 出版者
- 日本植物分類学会
- 雑誌
- 植物分類・地理 (ISSN:00016799)
- 巻号頁・発行日
- vol.36, no.1, pp.73-86, 1985-06-29
3回に分けて報告した西スマトラ州のシダ植物をこれで終わる.ここで扱ったのは,西スマトラ州の一部にすぎないが,総計で34科180種を確認した.種数の多い科としては,クラマゴケ科(15種),コケシノブ科(13種),ヘゴ科(10種),ホングウシダ科(9種),チャセンシダ科(13種),オシダ科(13種,うちナナバケシダ亜科10種),ヒメシダ科(17種),メシダ科(13種,すべてヘラシダ属),ウラボシ科(19種),ヒメウラボシ科(9種)などがある.とくに,せまい地域であるわりには,クラマゴケ科やウラボシ科の種類が多いのが注目される.初回の報告で,スマトラの高地の顕花の植物相は,中国南部から日本に広がる植物相と属のレベルで共通性が高いことにふれた.こころみにこの3回の報告で扱ったシダ植物の属で計算してみると,全82属中日本(沖縄を含む)に見られるもの61属,云南省や中国南部を広く含めると71属ほどが共通しており,それぞれの比率は74.4%と86.6%となる.これは,顕花植物で概算した比率(初回報告参照)と非常によく一致している.中国南部におけるシダ植物の分布は,まだよくわかっていない点もあり,ここでの86.6%というす数字は,控えめのものである.さてここで共通の属とされなかったもの,つまり中国以南にしか分布が知られていないものの内分けを見ると,Teratophyllum, Stenosemiaといった,マレーシアの低地から山地に特産もしくは準特産の属や,Orthiopteris, Didymochlaenaといった新旧両世界の熱帯に産するものが目だち,前者は地域としての特殊性を,後者は熱帯としての共通性を示している.オセアニアに分布の中心を持つ属が一つも出現していないことも注目されよう.この事からみると,スマトラ山地のシダ植物相は,東アジア山地のシダ植物相と極めて結びつきが深く,マレーシア域としての特殊性は多少見られるものの,オセアニア域との関連性は皆無に近い,ということになる.