2 0 0 0 しだの図鑑

著者
光田重幸著
出版者
保育社
巻号頁・発行日
1986
著者
武素 功 光田 重幸
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.22-26, 1985-06-29
被引用文献数
1

ヤブソテツ属Cyrtomiumとテンチョウシダ属Cyrtogonellumの新種を報告する.この仲間は中国の南西部,とくに貴州・云南・四川の三省に種数が多く,また,一部の種は石灰岩域とも関係が深い.ここで報告した二新種も石灰岩域のもので,Cyrtomium latifalcatumは有性生殖をおこない,ヤブソテツ属では,ミヤジマシダ,ホソバヤブソテツ,オニヤブソテツについで4番目の有性生殖種となる.オニヤブソテツ2倍体(ヒメオニヤブソテツ)とのちがいは本文を参照されたい.Cyrtogonellum xichouenseはこの属の多種と同様に無配生殖をおこなうが,葉脈は遊離しており,形態的に最もイノデ属に近い点が注目される.新大陸中南部に産するPhanerophlebiaは,一般にはヤブソテツ属に最も近縁とされているが,Ching(1938)も述べているとおり,葉脈の走り方や葉質の点でむしろテンチョウシダ属に似た点が多い.これまであまりこの点に注目する人がいなかったのが不思議なほどである.それは,この属のほとんどの種が中国南西部とベトナムの一部の石灰岩地に稀産し,あまり人々の眼にふれることなく来てしまったという事情によると思われる.南米のアンデスに産するCyrtomiphlebium dubiumと,今回発表したCyrtogonellum xichouenseはともにイノデ属に近い形態を持ち,これら数属の系統関係を解明するうえで重要な種となることだろう.
著者
光田 重幸
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.73-86, 1985-06-29

3回に分けて報告した西スマトラ州のシダ植物をこれで終わる.ここで扱ったのは,西スマトラ州の一部にすぎないが,総計で34科180種を確認した.種数の多い科としては,クラマゴケ科(15種),コケシノブ科(13種),ヘゴ科(10種),ホングウシダ科(9種),チャセンシダ科(13種),オシダ科(13種,うちナナバケシダ亜科10種),ヒメシダ科(17種),メシダ科(13種,すべてヘラシダ属),ウラボシ科(19種),ヒメウラボシ科(9種)などがある.とくに,せまい地域であるわりには,クラマゴケ科やウラボシ科の種類が多いのが注目される.初回の報告で,スマトラの高地の顕花の植物相は,中国南部から日本に広がる植物相と属のレベルで共通性が高いことにふれた.こころみにこの3回の報告で扱ったシダ植物の属で計算してみると,全82属中日本(沖縄を含む)に見られるもの61属,云南省や中国南部を広く含めると71属ほどが共通しており,それぞれの比率は74.4%と86.6%となる.これは,顕花植物で概算した比率(初回報告参照)と非常によく一致している.中国南部におけるシダ植物の分布は,まだよくわかっていない点もあり,ここでの86.6%というす数字は,控えめのものである.さてここで共通の属とされなかったもの,つまり中国以南にしか分布が知られていないものの内分けを見ると,Teratophyllum, Stenosemiaといった,マレーシアの低地から山地に特産もしくは準特産の属や,Orthiopteris, Didymochlaenaといった新旧両世界の熱帯に産するものが目だち,前者は地域としての特殊性を,後者は熱帯としての共通性を示している.オセアニアに分布の中心を持つ属が一つも出現していないことも注目されよう.この事からみると,スマトラ山地のシダ植物相は,東アジア山地のシダ植物相と極めて結びつきが深く,マレーシア域としての特殊性は多少見られるものの,オセアニア域との関連性は皆無に近い,ということになる.
著者
光田 重幸
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.75-83, 1984-05-29

スマトラ島やジャワ島は早くからオランダの植民地となっていた関係から生物相の調査の歴史も古く、BLUMEの「ジャワ植物名彙」などすでに1828年に出版されている。それだけに植物相調査のように時間とともに進展してゆく仕事は大いに進んでいると思われがちであるが、それはそれまでの資料の集積によるモノグラフ等がやっと順調に出はじめた第二次大戦前までの話で、独立運動によってインドネシアを失った後のオランダは、往時の活動は望むべくもないのかもしれない(顕花植物のvan STEENISのような人がいなかったら、それこそ沈滞といってもよい所である)。いっぽう現地のボゴール標本庫に残された標本も研究体制が整わないまま、その大半が放置されているというのが現状である。この地域におけるシダ植物相の調査報告は、今世紀にはいってからかなり乏しい。まとまった報告としては1925年にジャワ植物ハンドブック1が出ていて、ミズワラビ科、ウラジロ科、カニクサ科、リュウビンタイ科、ハナヤスリ科、トクサ科、ヒカゲノカズラ科、マツバラン科などが扱われているが、植物誌としては断片的なものにすぎない。1940年になって、シダ植物全体を扱った植物誌がライデンのリークスハーバリウムで刷られているが、これは標本館向きの私家版で謄写印刷であり、内容も覚書きといった程度のものらしい(筆者はまだ実物を見る機会を得ない)。それ以後では、KRAMERのホングウシダ科やHOLTTUMのヘゴ科等、分類群によっては調査が進んでいるものもあるが、これらの目的もマレーシア全体の調査の一環としてなされたものであって、まだスマトラ・ジャワの植物相全体の固有の性格に言及するというところまでは及んでいない。堀田満博士達の植物相調査は、西スマトラの一部ですでに3年にわたって継続されており、京都大学に集められた標本の数も次第に増えてきている。この報告で扱ったのは1983年夏の採集の分までで、しかも西スマトラの一地域のものにすぎないが、それでも180種をこえる種が明らかになった。中には新種かと思われるものもいくつかあるが、この地域の文献や情報がもう少し揃うまで保留しておいた。スマトラ島やジャワ島は熱帯圏にあるので、その植物相は日本や中国南部のものとは大きく異なっていると想像されがちであるけれども、山地の植物相について言えば、じつはそうではない。van STEENISの書いた「ジャワ山地の植物相」(1972)には316属の顕花植物が収録されているが、そのうち207属ほどは屋久島以北の日本にある属と共通であり、更に26属ほどのものを沖縄諸島に見いだすことができる。単純な計算によれば、山地性の属では、その73.3%、つまり約4分の3が日本と共通しているのである。この本に扱われている植物は、花の美しいものや、調査のゆきとどいた地域から選択されている可能性もあるので、これをもってジャワの山地全体におしひろげることはできないけれども、べつに日本の読者向けに書かれた本ではないので、この数字は調査が進んでも大きくかわることはないと思われる。中国南部の属を加えると、共通の属は80%を越えるのではないかと、筆者は考えている。だが、こういう属の数字上の共通部分が多いからといって、両者が同じ起源による同じ性格の植物相であるということは早計である。熱帯の山地などの植物相では、種間の棲み分け現象がはっきりないことがわかっているが、これらの共通部分も、もとあった異質な植物相をベースにして、大陸側から何度も植物が侵入していった結果として成りたったものかもしれない。こういう問題を調べるには、それぞれの林の構成種が大陸側のもととどの程度置きかわっていて、どの種とどの種が対応しているかといった観点が大切であるが、それは今後の調査にまたなければならない。このレポートでふれたトウゲシバ、クラマゴケ、Osmunda vachellii等は、そういう意味で興味ぶかい種と言えると思うのである。