著者
八田 賢明
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.83-91, 1972-02-01

従来, 子宮内膜の病変の診断に細胞診の行なわれる機会は子宮頚部に比して少なかつた. しかし簡単で確実かつ反復採取可能な内膜細胞診の確立がのぞまれていた. 近年, 内膜細胞採取法が種々考案され内膜細胞診による体癌の検出はもとより, 内分泌環境の変化に基づく各種内膜像についての細胞学的知見にも関心が注がれている. しかし内膜細胞診における判定も統一されておらず, 正常周期における内膜細胞の特徴的所見でさえ判然としない現状である. 本研究は子宮内膜腺細胞の正常周期像を細胞レベルでとらえ, 不正子宮出血例 (主に機能性子宮出血) に対し改良を加えた内膜採取法を試み, 得られた内膜細胞の塗抹標本上の特徴的所見を系統的に分析し, さらに子宮体癌と非癌内膜との細胞学的鑑別法について検討し, 次のような結果をえた. (1) 正常周期像では増殖期初期および分泌期後期ではそれぞれ比較的特徴ある所見がみられ, 特に細胞集塊の形態, 細胞質量の多寡に明らかな差異を見出しうるが, 増殖期後期と分泌期初期との間には剥離細胞所見は近似し, 両者間の区別は容易でない. (2) 不正出血例について病理組織分類別に内膜細胞を検討すると, 標本全体, 細胞質, 核各々に特徴的所見がみられ, その分析により背景となる組織像をほぼ推定することができる. (3) 各種内膜について核の長径と短径を測定し分布図をつくり比較すると, 特有な核群分布がみられるものがあり, 子宮体癌例では長径7.5μ〜17μ, 短径3.5μ〜13μの大小不同の強い核群と比較的均一な核径分布を示す2群が認められる. (4) 体癌細胞と非癌細胞との鑑別は核多形性, 核過染性, 核径不整, クロマチン像の他に内膜腺細胞の散乱傾向, 核小体肥大, 核内空胞に求めるべきである. (5) 機能性子宮出血例においては出血持続日数の増加につれ各種内膜に共通して細胞集塊性減弱, 遊走細胞増多, クロマチン像の変化がおこり, 固有の塗抹標本所見から離脱した結果がえられ, 出血開始直後での内膜細胞診の実施がのぞまれる. (6) 不正子宮出血例において腟プールスメア中に内膜細胞が出現する頻度は年令およびその背景の内膜像に関与する場合が多く, 出血持続日数の長短によつても差異を認めうる.