著者
古 庄敏行
出版者
The Genetics Society of Japan
雑誌
遺伝学雑誌 (ISSN:0021504X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.211-238, 1968

身長を支配する遺伝子型の発現をみるために, 同一個人の発育期から発育完了期までの逐年身長測定資料を用いて分析を試みた.<br>1. 発育完了期の年令と発育過程の各年令との間の身長の相関係数 r<sub>'i•j</sub> は概ね年令間の差が小さくなるにつれて高くなるが, 前思春期の年令に相当して一時的に相関が減じるため, r<sub>'i•j</sub>-curve の変動は相加的直線的でなく数次曲線に従う (Fig. 1, 2). r<sub>'i•j</sub>-curve は9つの samples を通じて非常によく類似した傾向を示した.<br>2. この r<sub>'i•j</sub> と年令別年間身長発育量の全国平均との間には強い逆相関 (r=-0.81~-0.97) がみられ, 発育の速かな年令期ほど r<sub>'i•j</sub> の小さいことがわかった.<br>3. Yoshida (1944) の子の年令別身長の親子相関と r<sub>'i•j</sub> との間に強い相関が存在することを知った (r=0.79~0.88). また, Takiguchi (1945) によって報告された発育完了期の兄と15~19才の弟との年令別身長相関も, 弟の14才以下の資料がないので完全に一致するか否かは確実ではないが, Fig. 1, 2の r<sub>'i•j</sub> (i=20, 21 in Data 2) に類似の傾向は示した.<br>4. このように年令によって親子相関や同胞相関の値が変動することが, 従来の報告においてこれら相関の値に大きな差の見られた原因の1つであると考えられる.<br>5. 発育完了期の身長と年間発育量との間の相関 (r<sub>'i•jp</sub>) を各年令別に求めたところ, 発育の最も速い年令期 (男•10~13才, 女•9~12才) において概ね逆相関を示した.<br>6. これらの事実により, 発育完了期の身長を支配する遺伝子型の発現は年令によって異なることと, この発現が前思春期には他の要因によって modify されることがわかる.<br>7. 同一年令で比較したときの双生児対偶者間の強い相関は1卵性双生児, 2卵性双生児とも年令とは殆んど関係がなく, ほぼ一定している. Otuki (1956) が報告した, 同一年令で比較した親子間の身長相関も, 年令による変動を示していない. このことは, 身長発育の pattern もまた遺伝子型の支配を受けることを示すもので, この遺伝子型は発育完了期の身長を支配する遺伝子型とは, かなり独立であると考えられる.<br>8. 従って, 身長に対する近親婚, 放射線などの遺伝的影響を研究するには, 発育の全過程を通じての観察にもとづくことが望ましい.