著者
古林 呂之 井上 大輔 田中 晶子 坂根 稔康
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】点鼻液剤の製造では、有効成分の溶解性を確保するために薬物の解離定数を考慮した液性に調整されるケースがあり、そのpH範囲は約3.5~8付近と幅広い。一方、鼻粘膜表面の粘液pHは5.5~6.5に維持されており、特にこの範囲を外れたpHに調整した点鼻液では、鼻腔内投与後の薬物の解離状態が変化し、鼻粘膜透過性に影響を生じると考えられる。本研究では、モデル薬物の鼻粘膜透過性に及ぼす投与液のpHの影響について、Calu-3細胞層を用いたin vitro透過実験による検討を行った。【方法】粘液pHの経時変化:気液界面培養法により培養したCalu-3細胞層(6-well)の表面に、pHを3.8、5.5及び7.8に調整した薬液を20 µLを滴下した後の粘液pHの経時変化を半導体 pH 電極(HORIBA)により測定した。透過実験:細胞間隙及び経細胞経路の透過マーカーとしてFD-4及び非解離性のantipyrineを用いて、薬液pHによる細胞層への影響を、粘膜側液量を1.5 mLとする定法の透過実験により評価した。モデルとしてacyclovir(ACV)及びlevofloxacin(LFX)をHBSS に溶解し、pH3.8、5.5及び7.8に調整した薬液を用いて、定法及び粘膜側に20 µL滴下する少量滴下法により透過実験を行った。【結果・考察】各pHの薬液を滴下した直後から粘液のpHは変化し、滴下後30分にはいずれの条件においてもpHは約6.4となった。また、各pH条件において透過マーカーの透過パターンに変化は観察されず、細胞層への影響はみられなかった。LFXの透過性は少量滴下法、定法共に、pHの影響は観察されず、ACVでは、定法においてpH3.8及び5.5で60分後の透過量が約4倍高くなったが、少量滴下法では透過にpHの影響はほとんど認められなかった。少量滴下法では、粘膜表面のpHが6.4付近に急速に戻されるため、ACVの透過性にほとんど影響しなかったと考えられる。現在、他のモデル薬物についても検討を進めており、発表に加える予定である。