著者
吉川 富夫
出版者
大阪経大学会
雑誌
大阪経大論集 = Journal of Osaka University of Economics (ISSN:04747909)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.117-137, 2017-05

ミクロ経済学では市場取引のみならず,時間と所得の制約の中で効用を最大化するという疑似市場を想定しながら,人間の行動を解明することができる。本論は,戦後日本経済の大きな担い手であった,団塊の世代が人生の各局面(学歴社会,会社社会,家族形成社会など)でどのような価値観をもって,人生を選択してきたか,そして世代を超えて今を残そうとしているのかを,分析対象としたものである。ここで論理構成の礎としているのは,ミクロ経済学の前提であるが,もちろんそこには「情報の非対称性」とか「限定合理性」といった完全市場からのかい離要因が存在し,それが理論上の市場均衡(予想した人生の「帰属意識」)と結果としての市場成果(総括すべき人生の「帰属意識」)のかい離を生み出し,それがそれぞれの人の人生の自己評価に現れてきているという認識がある。新卒一括採用・長期雇用・年功賃金というパッケージが,日本的雇用慣行として日本経済の成長を支えてきたのであるが,今日,技術革新要因,人口要因,市場拡大要因の変化によって大きな転換を迫られている。こうしたなかで,団塊の世代という日本経済高度成長期の労働力の主たる担い手が,どのように人生を総括しているのかという社会現象を,ミクロの経済理論(労働経済学)を適用して解き明かしてみたい。