著者
吉越 卓見 河原 大輔 黒橋 禎夫
雑誌
研究報告自然言語処理(NL) (ISSN:21888779)
巻号頁・発行日
vol.2020-NL-244, no.6, pp.1-8, 2020-06-26

言語を理解するには,字義通りの意味を捉えるだけでなく,それが含意する意味を推論することが不可欠である.このような推論能力を計算機に与えるために,自然言語推論(NLI)の研究が盛んに行われている.NLI は,前提が与えられたときに,仮説が成立する(含意),成立しない(矛盾),判別できない(中立)かを判断するタスクある.自然言語推論を計算機で解くには数十万規模の前提・仮説ペアのデータセットが必要となるが,これまでに構築された自然言語推論データセットは言語間でその規模に大きな隔たりがある.この状況は,自然言語推論の研究の進展を妨げる要因となっている.このような背景から,本研究では,機械翻訳に基づく,安価かつ高速な自然言語推論データセットの構築手法を提案する.提案する構築手法は二つのステップからなる.まず,既存の大規模な自然言語推論データセットを機械翻訳によって目的の言語に変換する.次に,翻訳によって生じるノイズを軽減するため,フィルタリングを行う.フィルタリングの手法として,評価データと学習データに対し,それぞれ別のアプローチをとる.評価データは,正確さが重要となるため,クラウドソーシングを用い,人手で検証する.学習データは,大規模な自然言語推論データセットでは数十万ペアの問題が存在するため,翻訳文の検証を自動的に行い,効率的にデータをフィルタリングする.本研究では,機械翻訳を用いた逆翻訳による手法と,言語モデルによる手法の二つを提案する.本研究では,SNLI を翻訳対象とし,日本語を対象言語として実験を行った.その結果,評価データが 3,917 ペア,学習データが 53 万ペアのデータセットを構築した.このデータセットは BERT に基づく自然言語推論モデルによって 93.0 %の精度で解くことが可能である.