著者
唐川純一
出版者
岡山県水産試験場
雑誌
岡山県水産試験場報告 = Bulletin of the Fisheries Experiment Station, Okayama Prefecture (ISSN:09129219)
巻号頁・発行日
no.15, pp.10-17, 2000-11
被引用文献数
1

ガザミに対する既存標識法の欠点を補う手法として自然脱落した脚の再生痕を取上げ,これを標識として用いた場合の有効性について考察した。 1.コンクリート水槽を用いて中間育成した種苗2群にみられる脚が脱落した個体の割合はC3期で38.7%と45.7%,築堤方式ではC2,C3期の群では14.5%,C3~C5期の群では23.1%であった。また,脚の脱落率は高い齢期群が低い齢期群に比べて高かったが,部位の違いによる脱落率の差は小さかった。 2.種苗の放流水域とその周辺では再生途上にある脚がみられる個体と背甲が変形している個体が混獲された。前者では部位によって,これらの出現率の差は大きく,このうち鋏脚において高かった。 3.人工生産したC2期種苗の抜去した鋏脚,歩脚,遊泳脚の回復状況を飼育環境下において観察した。2回脱皮した後,鋏脚では短小な再生脚の割合は80%を占めた。歩脚ではすべての部位で完全に再生した。遊泳脚では70%が完全に再生したが,14%が短小であった。 4.左鋏脚が脱落したC3期の供試個体は2回脱皮(C5期)することにより前節長と長節長は90%前後の高い回復率を示し,C6~C12期では92~98%で完全に回復するには至らなかった。また,前節高の2回脱皮後の回復率は80%程度でC6~C12期では86~91%を示し,前節長と長節長の回復率に比較してやや低かった。再生した鋏脚は相対する正常な鋏脚より小さく,両者を識別することが可能であった。