著者
堅田 彰
出版者
The Genetics Society of Japan
雑誌
遺伝学雑誌 (ISSN:0021504X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.136-139, 1950

無毛のアジアハツカネズミ (<i>Mus molossinus</i>) は生後約2週間目頃に脱毛し、成体になると肉眼では認識し難い発育の惡い粗毛がごくまばらに生じている程度である。皮膚を組織的にみると、眞皮が著しく肥厚していることがめだつ。毛嚢部における毛乳頭の発達は惡く、これが原因となつて毛の発育も從つて惡い。脱毛すれば再び毛の発生はなく、毛嚢は退化消失する。脱毛した毛嚢部にある毛嚢腺は退化して、大きな空所をもつた嚢状をなす。<br>裸頸鷄においては、胎兒には頸部から後頭にかけて羽毛の発育をみない。無羽毛部の皮膚の組織をみると、表皮の角層は肥厚しているが、眞皮の網状層の発達が惡い爲に、皮膚は甚だ薄い。眞皮の中には羽毛嚢も羽毛の運動に関係ある筋肉も存在しない。要するに、ハツカネズミの無毛は毛嚢部の陷が遺傳的に発現された結果であり、裸頸鷄においては羽毛嚢やそれに関係のある筋肉が遺傳子の作用によつて除したものであると考えられる。