著者
椎野 泰明 白浜 正人 大宇根 浩一 大田 近雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.597-603, 1998-07-25

はじめに われわれが切迫早産の理学療法に取りかかったのは16週間臥床したのち,帝切後9日目の褥婦に出会ったことに始まる。この患者は歩きはじめたところ,「膝の関節痛,足に力が入らない」と訴えて,産婦人科医から紹介された。たまたまこの産婦人科医が整形外科でなく,われわれのリハビリテーション科に紹介してきてくれたことが,新しいチーム医療を生んだ。すなわち,産婦人科医,助産婦に,リハビリテーション科医と理学療法士が加わった。リハビリテーション医学の視点からみると,この患者はまさに廃用症候群であった。筋力低下を生じていたが,助産婦は一生懸命励まし,とにかく歩かせようとしていた。このことがいわゆるover load(過負荷)を引き起こした。 では,なぜ筋力低下が問題なのかというと,女性のライフコースを考えた時,周産期に生じた筋力低下は膝関節の支持性を弱める。この状態のまま高齢化し,もし肥満になるようなことがあると,変形性膝関節症を発症することにもなりかねないからである。近年,インフォームドコンセントが認識されるようになった。胎児のためには安静が必要で,その結果長期臥床による廃用症候群を起こす。このことを精神的に不安をもつ妊婦に,訓練のリスクを含めていかに説明するか,難しい問題である。