著者
大島 悟
出版者
島根大学大学院教育学研究科 教育実践開発専攻
雑誌
学校教育実践研究 (ISSN:24345245)
巻号頁・発行日
no.2, pp.11-27, 2019-03-29

竹島問題の平和的解決に向けては, 日韓の若者同士の対話や議論の積み重ねが大切であり, 民間レベルでは実際にそのような議論も行われている。本研究は, 日本の中学生が韓国の中学生と対話をする際にどのような対話を試みるのか, その対話の質を高めるための指導はどうあるべきかという問題意識に基づき, ①韓国の中学生との対話場面を想定した調査を行い, どのような対話をしようとするのかを分析し, その特色について明らかにすること, ②対話の質を高めるための社会科の授業実践を行い, 事前の調査結果との比較分析を行い, 対話の質がどのように変容したかを明らかにすること, ③これらの取組を通じて今後の授業開発への知見を得ること, を主たる目的としている。そのために本研究では, ①にある事前調査を行った後, 先行研究を踏まえて対話の相手である韓国の主張への理解を深めるための教材開発による実践「日韓国交正常化交渉と竹島問題」を行い, ②の分析を行った。その結果, 事前調査で多かった韓国への反論や日本の主張のみの記述が大幅に減少し, それぞれの主張を理解した上で, 国際司法裁判所への提訴や話し合いによる解決を提案しようとする記述が増えるなどの変容が認められた。また記述内容から,日本が正当に主張する立場からの指導をしたとしても, 解決に向けて考える際には, 生徒は多様な考えを示すことがわかった。これらの研究から, 今後の授業開発に向けて, 韓国の主張の理解のための近現代史学習の重要性, 平和的な解決に向けた対話を考える学習の有効性, 領土問題の学習を社会科において扱う可能性についての示唆が得られた。