著者
田中 晋吾 大崎 直太
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.588, 2005 (Released:2005-03-17)

寄生性昆虫の中には、寄主の行動を操作することにより天敵から逃れるものがいる。しかし、寄生者が操作することができる寄主行動には限界があり、寄主本来の性質を大きく外れることはないものと考えられる。そのため、寄主を操作することで適応度が高まるならば、積極的な操作が好まれるだろうし、操作しても効果が望めないのであれば、積極的に操作せず他の要素を優先するだろう。寄主操作には高度な特異性が要求されると考えられるが、同じ寄生者が寄主の性質に合わせてどこまで特異性を発揮できるのか興味深い。多寄生性寄生蜂アオムシコマユバチは、自らの繭塊を二次寄生蜂から守るために、寄主幼虫オオモンシロチョウの行動を操作することが知られている。本種寄生蜂は終齢の寄主幼虫から脱出するとその場で繭塊を形成するが、寄主幼虫はすぐには死なずにその場に留まり、繭塊に近づくものに対して威嚇をする。本種寄生蜂の利用する寄主はオオモンシロを含めてわずか数種ほどだが、その性質はきわめて対照的である。群集性のオオモンシロとエゾシロチョウの幼虫は行動も比較的活発だが、単独性のモンシロチョウ幼虫はおとなしい。このような寄主幼虫の性質の違いは、二次寄生蜂からアオムシコマユの繭を防衛する効果に影響を与えるかもしれない。寄主操作の効果が寄主幼虫の性質を反映したものであれば、前2者では寄主操作の効果は高いものと思われるが、モンシロチョウでは寄主操作の効果はあまり期待できないだろう。本研究では以上の予測を検証した上で、操作することで得られる利益が少ないと思われるモンシロチョウを利用することのメリットを、主に産卵数などの他の寄主利用に関する要素との兼ね合いによって説明する。