- 著者
-
川副 雄史
中尾 一貴
高亀 弘隆
小嶋 大二朗
立山 慎一郎
熊井 惟志
大枝 基樹
森谷 茂太
- 出版者
- 特定非営利活動法人 日本脳神経外科救急学会 Neurosurgical Emergency
- 雑誌
- NEUROSURGICAL EMERGENCY (ISSN:13426214)
- 巻号頁・発行日
- vol.27, no.1, pp.15-28, 2022 (Released:2022-07-12)
- 参考文献数
- 29
近年,細菌性脳膿瘍の予後は,外科手術や抗生剤の進歩とともに改善されつつあるが,依然として死亡率は10‒20%と高く,重度の後遺症を生じ得る致死的疾患である.また,抗生剤の選択や投与期間,外科治療のタイミングや術式など,良好な予後につなげるには未だに不明な点が多く,標準的治療は確立されていない.2014年4月から2021年3月までの7年間に,2施設の地域医療支援病院において細菌性脳膿瘍の治療を行った患者を対象に,臨床的特徴と治療成績を後方視的に評価し,転帰に関連する因子を比較検討した.条件を満たした合計20例を対象に,平均年齢は66.7±15.8歳,男女比は3:1だった.脳膿瘍の治療として14例(70%)に外科手術が施行され,6例(30%)は抗生剤治療のみで加療した.起因菌は,15例(75%)の患者で分離同定され,推測される脳膿瘍の原因疾患として,歯科口腔感染症が最多を占めた.本検討では,脳血管疾患の既往,入院時の中等度から高度意識障害および脳室炎の合併が,転帰不良に関連する危険因子だった.これらに対して,年齢,性別,病前modified Rankin Scale(mRS),平均体温,平均白血球数やC‒reactive protein(CRP)値,膿瘍径,単発性か多発性かどうか,eloquent areaにおける局在部位,脳ヘルニアや硬膜下膿瘍合併の有無,起因菌の同定率,抗生剤治療の期間,経過中のてんかん合併の有無は転帰と関連していなかった.また,統計的に有意差はなかったが,発症後72時間未満に手術を行った早期手術群では,全症例で起因菌を分離同定する事ができた.結語として,脳膿瘍の治療において意識障害の強い例や脳室炎の合併リスクが高い例では,積極的な穿刺吸引術が検討され,入院早期から基礎疾患の管理と積極的な離床に努める事が重要である.過去の報告と比べて,本邦では歯科口腔感染症に由来する脳膿瘍が増加傾向にあり,嫌気性菌を念頭に置いたempirical antibiotic therapyが必須である.外科的排膿術を行う場合,抗生剤導入後は起因菌の検出率低下が懸念されるため,起因菌の分離同定の観点からは速やかに手術を行う事が望ましい.