著者
宮下 牧恵
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.54-69, 2023-03-01 (Released:2023-03-30)

近年、著名人の自殺についてどのように報じるかが注目されている。昨年5月にダチョウ倶楽部の上島竜兵さんが亡くなった際にも、自宅の前から中継を行った放送局や、自殺手段を報じた放送局がSNS上や新聞上で批判された。WHOでは、「自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識2017年最新版」(通称「自殺報道ガイドライン」)を公表している。この中で、自殺報道について、「やるべきこと」と「やってはいけないこと」の計12項目が示されており、各項目について詳しく説明が記載されている。そこで、「調査研究ノート」では、上島竜兵さんが亡くなった当日に放送を行った26番組の中で、「自殺報道ガイドライン」の「やるべきこと」「やってはいけないこと」についてどの程度満たす形で報道が行われたかを分析する試みを行った。分析の結果、「やるべきこと」とされる、「自殺と自殺対策についての正しい情報を、自殺についての迷信を拡散しないようにしながら、人々への啓発を行うこと」や「日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道をすること」は、放送している番組が少なかった。また、「やってはいけないこと」の項目には、「自殺の報道記事を目立つように配置しないこと。また報道を過度に繰り返さないこと」とあり、その内容として、「最初の報道内容を繰り返したり、新しい情報を加えたりすることに関しては注意を払わなくてはならない」との説明があるが、繰り返し上島さんの情報を伝える放送も見られた。