著者
下地 伸司 小田中 瞳 宮田 一生 菅谷 勉 川浪 雅光
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.431-441, 2013

目的:歯周治療を安心・安全に行うためには,その治療が全身状態に及ぼす影響を解明することが重要である.そこで著者らは,歯科治療の影響を評価するための自律神経活動モニターシステムを開発してきた.本研究ではパイロットスタディとして,新規開発モニターシステムを用いて健全な20歳代のボランティアに対して歯周基本治療を行った際の自律神経活動の変化について検討を行うとともに,システム自体の使用感についても評価を行った.対象と方法:10名(25.4±1.4歳)のボランティアに対して口腔内検査,歯周ポケット検査,スケーリングおよび印象採得を行った際の血圧,心拍数,経皮的動脈血酸素飽和度および自律神経活動について,新規開発モニターシステムを用いて評価した.自律神経活動は,心電図のR-R間隔を高周波成分と低周波成分に周波数解析することで,交感神経活動および副交感神経活動を評価した.またシステム自体の使用感については,質問票による調査を行った.成績:質問票への回答から,システムを装着すること自体をつらいと感じる者はいなかった.血圧,心拍数および経皮的動脈血酸素飽和度については,歯周基本治療時には処置開始前と比べてほとんど変化がなく,有意な差は認められなかった.交感神経活動は,処置前のユニット着席時や処置の開始直後に上昇する傾向がみられた.このことから,健全な20歳代に対する歯周基本治療では,処置中の侵害刺激の影響よりも精神的なストレスの影響が大きい可能性が示唆された.結論:新規開発自律神経モニターシステムを用いることで,簡便かつ非侵襲的にストレスなく歯科治療が自律神経活動に及ぼす影響を評価することができる.また,健全な20歳代に対して歯周基本治療を行うと,実際の処置中よりも処置を待つ開始直前や処置開始直後に交感神経活動が活発になる傾向がある.